Categories: 洒落怖

喜一

この怖い話は約 3 分で読めます。

723 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/08/16(日) 06:50:41 ID:11KLgdvXO

息を切らしながら、俺達は喜一の家の手前まで来た。
すぐ先でコテツが、けたたましい鳴き声で吠えている。
コテツが吠えている先の物を目にしたとき、俺達は戦慄した。
真っ赤な血に溢れた金ダライ。
その横に山羊の頭が転がっていた。
叔父も亡くなった祖父も猟師だったので、俺達はそれを見て喜一が何をしたのか理解した。

喜一は山羊を喰ったんだ。

でも今はそれどころじゃない!
早く逃げないとやばい!!

コテツが吠えているので、喜一が出てくるのも時間の問題だと思った。
兄がリードを掴み、しっかりと手に巻きつけて俺達は一目散に坂を駆け下りた。
少し離れた所で喜一が追いかけてきていないことを確認すると、兄が言った。

「山羊の頭、ひとつだけだったよな?」

…確かに、転がっていた頭はひとつだけだった。

「うん。」

「もう一匹は逃げたのかな。助けに行こう。」

兄が何故そういう考えに行き着いて、そして何故自分がそれを了承したのかも、今となっては思い出せないが、あわよくば山羊を貰ってしまおうという考えがあったのかもしれない。
喜一の家とばあちゃんの家の間にある隠居さんの所にコテツを預けて、俺達はまた喜一の家の坂を上りだした。
夕暮れで、日は既に落ちかけていた。

725 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/08/16(日) 06:52:08 ID:11KLgdvXO

喜一の家に辿り着くと、さっきの頭と金ダライが消えていた。
それでも、まだ乾いていない血の跡が地面を濡らしていた。
俺達は気付かれないように周囲に注意しながら、喜一の家の裏に回った。
最初に来たときにすれ違わなかったから、山羊はきっと、逃げたなら裏山に入るはず。そう考えたからだ。
迷っても南に行けば、ばあちゃんちの裏山に繋がるはず。傾斜の方向の左手に行けばなんとかなるだろう、と適当な事を考えながら、俺達も山に入った。

山に入るとすぐ、きちんと舗装された道に出た。
ばあちゃんちの方にはこんな道ないよね!?と新たな発見に興奮しながら俺達はその道を辿った。

ふいに、兄が小声で隠れろ!と俺の体を掴んで、道の脇の木の陰に潜ませた。

「喜一だ。」

道のだいぶ先を、こちらに背を向けて喜一が歩いていた。
何やら叫んでいるようだったが、何を言っているのかは分からなかった。

ここに来て、俺は急に怖くなった。
もう辺りは薄暗く、さらに知らない道だ。
何よりも、あんなに可愛かった山羊を喰った喜一が、とても怖かった。

喜一は狂ってる。

真っ赤な顔。戦時中の軍人がかけていたような丸眼鏡。常に緩んで、よだれが垂れかけている口元。

「お兄ちゃん、もう帰ろう?」

後で馬鹿にされると思いながらも、必死で訴えた。

「じゃあ帰れば?俺はアイツを尾行する。」

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