この怖い話は約 3 分で読めます。

496 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/07(木) 17:50:06.37 ID:HSLKAHpZ0
そして帰る前に離れの部屋を見せていただきました。そこは夫妻の家から10mばかり離れた庭の中にあり、外観はまだ新しいものでした。「ここは元々は息子が動物を飼育するための小屋として使っていた場所で、ひとり息子が死んでから今年でちょうど10年になる。それで私たちもいつまでも悔やんでいてもしかたないと、ここを建てかえて人に貸すことにしたのだよ。あなたのような人に住んでもらうことになってよかった」とご主人。
「ほんに。息子は生き物の好きな子でしてねえ」と奥さん。

それを「これ」とご主人がたしなめ、「あなたが都合のよいときに引っ越してきてください、いつでもかまわんよ」とおっしゃってくれます。私がお愛想のつもりで息子さんの仕事について尋ねますと、ご夫妻は顔を見合わせていましたが、ご主人が「なに、わたしの跡を継いで職人をしていたんです。あなたも工芸をおやりになるそうで、息子が生きていたら気が合ったかもしれませんな」と答えられました。部屋は6畳の一間に台所、バス・トイレと普通のアパートと違いはありませんでした。
ただ建物の外観に比べて内部がせますぎるように思われました。しかし壁などを厚くしていねいに造っているのだろうと解釈することにしました。

497 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/07(木) 17:52:24.98 ID:HSLKAHpZ0

それから1週間後、学校の始まる3日前に引っ越しました。

荷物は布団や小型冷蔵庫など最小限で、さほど時間はかかりませんでした。その時は私の母も一緒でしたが、大家さん夫妻は満面の笑みで出迎えてくれ「何か不都合なことがあったらいつでも言ってきなさい」「これはこの地方でとれる蕗の煮物だよ」と奥さんからはお料理までいただきました。冷蔵庫の中身はまだ買っていなかったのでありがたく思いました。
母は翌日も仕事があるためすぐに帰り、スーパーなども近くにあったのでとりあえず買い物をして荷物の整理をしているうちに早くも日暮れとなりました。

その日は疲れていたのでスーパーで買った出来合いのお総菜といただいた蕗の煮付けを食べて早く寝ようと思いました。
その蕗の煮物を一口食べて奇妙な味がするのに気がつきました。
不味いというわけではないのですが不思議な香りがするのです。西洋ハーブのアニスによく似ています。この地方特有の味付けかと考え、せっかくのご厚意にこたえないのも失礼と思って全部食べてしまいました。

布団を敷いて横になるとすぐに眠ってしまいました。
そして奇妙な夢を見ました。それは大広間のような和室に大勢の人が集まりみな喪服を着ています。
どこか田舎の大家のお葬式のようです。

そうしてそこに次の間から自分が和服の花嫁衣装を着て入っていくのです。すると両脇から大家さん夫妻がやはり喪装で、昼に見たような満面の笑みを浮かべて私を迎え、手を取って上座の席に連れて行きます。隣の花婿の席は空いています。

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