Categories: 洒落怖

さしあげます

この怖い話は約 3 分で読めます。

819 本当にあった怖い名無し New! 2013/08/07(水) 08:43:23.94 ID:oH2t4wiW0
 
トントントンと俺は土間まで降りて、Aくんを振り返った。
俺に続いて階段の一番下まで降りてきたAくんの様子がおかしい。
いつもニヤニヤしてるような顔なのに、こわばった真顔で、なんでか歯だけゾロっと剥き
出して、じっと立っている。
そして、ビデオの逆再生みたいに、今降りてきた階段をこっちを向いたままで後ろ向きに
登りはじめた。
俺も若旦那も冗談か?と思ったが、Aくんはそのまま階段をトン、トン、トン、トンと後ろ向きに
登っていく。進行方向を確認したりもせず、顔はずーっとこっちを向いたまま。真顔で歯を
剥きだした顔のまんまだ。
Aくんは後ろ向きのまま階段を上がり切ると、後ろ向きのまま廊下の奥に後ずさって行って、
見えなくなった。

なんか只事ではないと感じて、俺と若旦那は階段を駆け上がった。
Aくんは廊下の、一番奥の部屋の襖の前で正座していた。上半身がふらーりふらーり揺れていて、
顔は泣き笑いというか、ホロ酔いで気持ちよくなった人みたいに目をつぶってへらへら笑っていた。
「おいA!」と何度呼びかけても反応なし。
そして、Aくんの前のフスマがゆっくり開いた。Aくんが正座したままフスマの方へ少しずつ動き始めた。
Aくんの体はそのまま部屋の中に入っていって、フスマがまたゆっくり閉まった。

血相を変えた若旦那が俺を押しのけて廊下を走り、フスマをバーンと開けた。俺も追いかけた。
Aくんはからっぽの部屋の真ん中で、身体を伸ばした気をつけの状態でうつ伏せに横たわっていた。
二人でAくんを引きずり起こした。そのとき、Aくんがずっと何かを呟いているのに気づいた。
俺にはこう聞こえた。
「さしあげますから。さしあげますから。さしあげますから。さしあげますから。さしあげますから」

そのままAくんを外に引きずっていったが、いくら呼びかけても正気に戻らない。
若旦那が携帯で救急車を呼んだ。

820 本当にあった怖い名無し sage New! 2013/08/07(水) 08:43:51.42 ID:oH2t4wiW0
 
尻つぼみで申し訳ないけど、その後のことは断片的にしか知らない。

その後、若旦那は社長にムチャクチャに怒られてた。
事務所の衝立の向こうで話の内容はよく聞こえなかったけど、他の社員さんがポロッと
漏らしたのは、借金で店を畳む時にあの家で人死にがあったらしい。もちろん社長は
知っていて、何かの手続き(お祓い?)を済ませて「きれいになったら取り壊すつもりだった」
とか何とか。それ以上の詳しいことは、若旦那の口からも聞かせてもらえなかった。

Aくんは精神的な発作だろうということで入院した。
何度か見舞いに行くうちにお母さんから話を聞いた。
Aくんは夜になると毎晩ベッドから出て、床でうつ伏せに横になっているとのことだった。

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