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翌日から、上司は目に見えて体調を崩した。
仕事が出来ないほどではなかったが、体が重く食欲が失せ、無理に食べても三日で体重が5キロ落ちたという。
一週間も経つ頃には形相も変わり同僚にも本気で心配され始め、町立の総合病院に行ったが、どこにも異常はなかった。
村での体験にショックを受けただけと思い、意気地の無い自分を奮い立たせたが、回復しなかった。

245 上司の昔話(4/5) sage New! 2011/07/20(水) 22:20:54.02 ID:KT3ktib/0
ある日、町役場の企業立地担当を訪問する用事があった。
役場の担当者は若く歳も近かったので仲が良かった。飲んだ際に霊感があるという話を聞いたことがあったが、その手の話を信じない上司は、からかった受応えをしたものだった。
用件もそこそこに、その彼が切り出した。
どうせまた茶化すんだろうが、体調に関わることだから真面目に聞いてほしい、と。
曰く、上司の体調は呪いによる憑き物のためであり、お祓いを受けたほうがいいので、慣れた寺を紹介をするということだった。
上司は、彼の霊感を信じたわけではなかったが、藁にもすがる思いで、彼が電話を入れてくれた寺に向かった。

寺の住職は、落ち着き払った様子で上司を迎え、極めて淡々とお祓いをしてくれた。
お祓いが済んだ後、嘘のように回復した上司は、それでもまだ呪いには半信半疑のまま、あの集落での体験を住職に話した。
住職は、あの集落が、土着のある風習を今でも頑なに守り続けていることを教えてくれた。
風習とは、その昔宿を貸した他所者に、赤ん坊をさらわれたことに端を発する集落の自己防衛策であり、村に生まれて間もない赤ん坊がいるときには、外部からの人間を迎え入れてはいけないというものだという。
風習はいつからかエスカレートし、追払った他所者が二度と村に舞い戻らないよう、祈祷師により、他所者を呪い殺すようになったのだという。
上司は、あの晩に見た老婆とその叫び声を思い出したが、それでも呪いなど信じたくなかった。

247 上司の昔話(5/5) sage New! 2011/07/20(水) 22:22:14.06 ID:KT3ktib/0
しかし、あの村で見たのは男も女も年寄りばかりだった気がするし、若い者が出て来ないのは何故だろうか。
そもそも、いくら田舎とは言えこの現代にあって、若い世代がそんな風習に縛られて生きていることは信じがたかった。
そんなようなことを素朴な疑問として、上司は住職に尋ねた。

住職は一瞬目を丸くしたが、上司がまだすべてを理解していないと知り、微笑みながら教えてくれた。

あの集落は日本全国でもかなり早い段階で高齢化を迎え、残った老人達は頑なに周囲との交流を拒み、居もしない赤ん坊を守るという建前で、他所者を追払い続けたこと。
そしてその末に、集落が絶えてもう三十年以上経つことを。

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