この怖い話は約 3 分で読めます。

「このあたりは」とコーヒーを置いて口を開く。
「このあたりは戦時中に激しい空襲があったんだ。
B29の編隊が空を覆って、 焼夷弾から逃れてこの店の地下に逃げ込んだ人たちが大勢いたんだけど、煙 と炎に巻かれて、逃げ場もなくなってみんな死んでいった」

淡々と語るその口調には非難めいたものも、好奇も、怒りもなかった。
ただ語ることに真摯だった。
僕はそのとき、この女性が地元の生まれなんだとわかった。

「まだ夜も明けない時間だったそうだ」
そう言って、再びカップに手を伸ばす。

519 10円  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/01/28(日) 12:54:54 ID:STrJj++Q0
後悔した。
無責任なことを言うんじゃなかった。
情けなくて気が滅入った。

京介さんは暫し天井のあたりに視線を漂わせていたが、僕の様子を見て「オイ」と身を乗り出した。
そして、「元気出せ少年」と笑い、「いいもの見せてやるから」とジーンズのポケットを探り始めた。

なんだろうと思う僕の目の前で京介さんは黒い財布を取り出し、中から硬貨を1枚出してテーブルの上に置いた。
10円玉だった。

なんの変哲もないように見える。
頷くので手にとってみると、表には何もないが10と書いてある裏面を返すとそこには見慣れない模様があった。

昭和5×年と刻印されているその下に、なにか鋭利なものでつけられたと思しき傷がある。
小さくて見え辛いが「K&C」と読める。
これは? と問うと、私が彫ったと言う。
犯罪じゃないかと思ったが、突っ込まなかった。

「高1だったかな。
15歳だったから、何年前だ・・・・・・6年くらいか。
学校で友だちとこっくりさんをしたんだよ。
自分たちは霊魂さまって呼んでたけど。
それで使い終わった10円をさ、持ってちゃダメだっていう話聞いたことあ ると思うけど、
私たちの間でもすぐに使わなきゃいけない、なんていう話になって確かパン屋でジュースかなにかを買ったんだよ」

僕も経験がある。
僕の場合は、こっくりさんで使った紙も近くの稲荷で燃やしたりした。

「使う前にちょっとしたイタズラを考えた。
そのころ流行ってた噂に、そうして使った10円がなんども自分の手元に還って来るっていう怪談があった。
でもどうして、その10円が自分が使ったやつだってわかるんだろうと常々疑問だった。
だから還ってきたらわかるように、サインをしたんだ」

520 10円  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/01/28(日) 12:56:25 ID:STrJj++Q0
それがここにあるということは・・・・・・
「そう。そんなことがあったなんて完璧に忘れてたのに、還って来たんだよ今ごろ」

4日前にコンビニでもらったお釣りの中に、変な傷がついてる10円玉があると思ったらまさしくその霊魂さまで使用した10円玉だったのだと言う。

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