Categories: 師匠シリーズ

すまきの話

この怖い話は約 3 分で読めます。

……家から近い本屋、本屋の前の公園……

いったい誰なんだろう、という疑問は湧かなかったと思う。俺は師匠だと直感的に分かった。
「どうしたんですか」
と大きな声で呼びかけた瞬間、ガサガサという、紙袋かビニール袋が揺れるような音がした。
その後は電話口の向こうから声がしなくなった。時どき、ガサ、という小さな音がするだけだ。

何度か向こうに呼びかけてから、もう通じないのだと判断して電話を切った。
すぐに外出用の服に着替える。
師匠になにかあった。
それだけは分かる。
家から飛び出し、自転車にまたがって、師匠の家の方に向かう。空は曇っているのか月が見えず、街灯がないあたりは真っ暗だ。
師匠の家に入り浸っているうちにすっかりそのあたりの土地勘を身につけてしまった俺は、「家から近い本屋、本屋の前の公園」というヒントから、指示された場所に最短距離で到達した。
そこは緑の多い一角で、遊具の類はほとんどないけれど、住民たちの散歩コースになっている広場だった。入り口に自転車を止め、恐る恐る足を踏み入れる。
人の気配はない。少なくとも動くものの影は。

932 すまきの話 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/20(土) 23:10:41 ID:sgJKT7Op0
薮になっている所を回り込み、街灯の明かりが作る陰影をじっと観察しながらそろそろと進む。
妙に静かだ。
堅い土の地面に小さな石が転がっていて、俺の足がそれを蹴飛ばす乾いた音が響く。
藪の手前に木製のベンチが二つ並んでいる場所があり、そこに誰かいそうな気がして首を伸ばしたが、遠目にも人の姿は見あたらなかった。
公園が違ったのかと思って、頭の中で住宅地図を再生しようとしていると、その誰もいないベンチから人の気配が漂ってきた気がした。
緊張してもう一度視線を向ける。

二つのベンチには、やはり誰もいない。その向こうは見通しがいいので、誰も隠れてはいないはずだ。後ろの藪の中ならば分からないが、見るからに硬そうな枝木だ。あの中に潜むなら相当の引っ掻き傷を覚悟しないといけないだろう。
あとは、ベンチの横のゴミ入れか。
そう考えた瞬間、なにか嫌なものが身体を駆け抜けた。
そのゴミ入れは、よくある金属製の網状になった円筒で、上の方に向けて少し径が大きくなっているやつだ。その内側には黒いビニール袋がはめ込まれている。ただ、普通に公園などで見るタイプよりかなり小さい。大人の腰までも届かないくらいだ。
そのゴミ入れから、異様な気配がしている。
いや、意識を集中すると分かる。気配などというあいまいなものではなく、はっきりと血の匂いだと分かった。
息を止めながらゆっくりと足を進める。血の匂いが強くなってくる。明らかにゴミ入れの中からだ。
少し近づいてよく見ると、ゴミ入れの下の影になっている所になにかの染みが出来ている。

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