Categories: 洒落怖

この怖い話は約 3 分で読めます。

「決して外を見ないで。静かにしていて」

そしてあっと言う間に出て行った。俺は呆気に取られてしばらくドアの前に立ち尽くしていた。と背後から絶叫が聞こえてきた。体が跳ねて思わず声が漏れた。
一足飛びにベッドへ戻り毛布にくるまった。絶叫は止まない。まるでこの部屋をピンポイントで狙っているかのようだ。しかも……心なしか段々近付いているように聞こえる。ここ5階なのに。
2階、3階、4階……とうとう窓のすぐ外から……

バンバンバン
バンバンバン

俺は気絶した。
288 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/07/19(日) 08:37:31.96 ID:BrMRZWRTO.net[5/6]
翌朝は寝坊した。あんなことがあった割には目覚めは悪くなく、顔を洗うとサッパリして悪い夢を見ただけだと思えた。
人の少ないレストランで朝食を取っていたら彼女が水を注ぎにきた。昨夜とは打って変わって飛び切りの笑顔だった。昨日のことを聞こうとしたが笑みを浮かべたまま行ってしまった。
後ろ姿を見ながら首を傾げて向き直ると、コップの横に小さく折り畳んだ紙片が置かれていた。これはもしや……ラブレター? いよいよ旅先で金髪美人とアバンチュールかと期待に股間が膨らんだ。
紙片をポケットに入れ急いで食事を済ませると部屋へ戻った。ドキドキしながら紙を広げた。
「あなた生け贄にされる。早く逃げて」
何だこれは。意味が解らない。何で生け贄にされなきゃならないのか。頭が混乱した。彼女に聞かなければと立ち上がったら、ノックがした。
ホテルのご主人だった。気のいいおっさんだ。手塚治虫の漫画に出て来るヒゲオヤジに似てる。
「あんた××日まで滞在の予定だったな」
「はい」
「もう少しおらんか。わしらももっと日本のことを聞きたいし。安くするから」
「え……と」
「ウェイトレスもそうして欲しいと言っとるぞ」
ハッとした。
「いえ、折角ですがもう出発しなくちゃいけなくなりました。その、友達と合流する約束をしていたのを忘れていまして」
ご主人は残念そうに引き留めたが重ねて断ると案外あっさりと申し出を引っ込めた。
俺はすぐに荷物を纏めると午前中にホテルを出た。彼女に一言別れを告げたかったが見当たらなかった。ロビーにも通りにも人影はまばらで、それなのにやたらと視線を感じた。
その日の内にフィンランドを出た。
289 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/07/19(日) 08:38:29.61 ID:BrMRZWRTO.net[6/6]
「今思い返してもよく解らん出来事だった。その後デンマークで知り合ったフィンランド人に話してみたんだが、彼も説明がつかないようだった。
担がれたんだろうなんて言われたが田舎の人がそんなことするとは思えない」
「叫んでる女が地方に伝わる化け物で、現れたら必ず生け贄を捧げなきゃいけないとか?」
「俺も似たようなことを考えたが、そのフィンランド人はそんな化け物の伝説は聞いたことがないと言っていた」
親父は写真をじっと眺めていた。
「話はそれで終わりだ」
「あ、女の顔は見たの?」
「いいや。不思議と顔の記憶はない」
親父は写真から目を離して俺を見た。
「不思議と言えばこの彼女。ホテルのウェイトレス。どうしても名前を思い出せない。聞かなかったはずはないんだが……」

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