この怖い話は約 3 分で読めます。

私のノイローゼ気味の日々は続いていました。
以前にも増して、誰かに見られている感覚が強くなってきたのです。
一日一回は老婆が私の耳元で言ったあの言葉が聞こえてくる始末。
そしてついに老婆の姿が常に見えてしまう。
そんな状況まで追い込まれていったのでした。
食事もろくに喉を通らず、眠れない生活。
私は次第にやつれていき、あの老婆の様に頬が痩せこけたみすぼらしい顔になってしまいました。
見かねた両親が私にこう言いました。
「最近のおまえはおかしい。でも我が子を精神病などと思いたくはない。おまえが言う事を信じているわけではないが、一度、霊媒師にみてもらったほうが良いと思う。」
そして私は母の弟の紹介で霊媒師の元へ行く事となったのです。

紹介してくれた叔父の車で霊媒師のもとへ向かいました。
着いた先はなんの変哲もない住宅街。
そしてただの一軒家でした。
出迎えた女性に案内され、家の中へ。

一室に通され、その場に座っていた女性こそ、誰あろう霊媒師の方だったのです。
年の頃は70代前半といったところでしょうか。
ふくよかな顔が優しい印象を覚えさせる老女でした。
「こちらにおかけなさい。」
そう言うと彼女は私を自分の前に座らせました。
彼女は私の手を握り、こう言いました。
「あなたが来たのはすぐにわかりましたよ。あなたはすごい霊能力を持っていらっしゃる。
でもね。あなたは霊媒師になりたいわけじゃないんだものねぇ?だったら必要ないのにねぇ。可哀想にねぇ。」
矢継ぎ早に話していく老女。
そしておもむろにこう言ったのです。
「あなたには今、非常に厄介な霊が憑依している。気味の悪いお婆さんだねぇ。」
驚いた。
ただただ驚いた。
私はここに来てからまだ何も言ってないのです。
しかし老女の言っている事は寸分の狂いなく当たっているのです。
「あんたなんでこんな悪さをするのさ。この子に何の関係があるんだい?」
優しい口調で話していますが、私に話しているのではなさそうです。
私は黙って老女の言葉に耳を傾けました。
「そうかいそうかい。それは大変だったねぇ。だけどこの子には関係ないだろ。早いとこ成仏しなさい。」
そう言った後、老女は私の肩に両の手を置き、なにやらお経のようなものを唱え始めました。
何度も何度も私の肩を強く叩き、老女は拝み続けます。

一時間ほど彼女と霊の攻防があったのでしょう。
深く溜息をついた老女はにっこり笑って私にこう言いました。
「もう大丈夫だよ。あなたに憑いてた霊はいなくなったからね。」
彼女にそう言われるまでもなく私の体がそれを理解していました。
憑き物が落ちるとはまさにこの事。
体が軽く感じ、食欲までもが出てきたのです。
老女はこう続けました。
「あなたについていた霊は40年以上前にあなたの家の周りに住んでいた地主さんだよ。あなたの家の周りは昔、一つの土地で、彼女はそこの女地主。
ある時、資産目当てで彼女は親族に殺される羽目になったんだ。死因は焼死さ。彼女の自宅に火をつけたんだろうねぇ。
彼女は相当怒っていたよ。
『井上だけは許せない』
と言っていたねぇ。井上ってのは親族の方のようだね。」
言葉が出なかった。
唖然とした。
私は老女に聞きました。
「なぜ僕に憑依したのでしょうか?」
彼女の答えは単純明快でした。
「それはあなたが霊に優しい人だからさ。霊ってのは霊媒師のように霊の気持がわかる人間に憑こうとするのさ。だから何の関係もないあなたに憑依して、恨みを晴らそうとしてたんじゃないのかねぇ。」

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bronco

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