Categories: 洒落怖

時計回り

この怖い話は約 3 分で読めます。

……何でもない。
前を向いたまま、息苦しくもならず、びっしりと人形の並んだ壇に近付けた。
俺は引き返して、もう一度時計まわりに段を回る。
同じ場所で同じ様に、首が回る。息が詰まる。
これは何だ?
逆に回る。何もない。
目の前には何の変哲もない雛人形が、ただ無造作に並んでいるだけ。
怪しくないし、嫌な感じもしない。
でも、向こう側…雛壇の左寄りに、一つだけこの場に不釣り合いな人形がある。
雅びな彩りの人形の中に、やけに鮮やかな水色とレモン色が見えていた。
何故だかそれを確認したい気がして、俺はもう一度左へ回る。
今度は手前で立ち止まり、離れて観察した。

948 時計まわり3/4 ◆BxZntdZHxQ sage New! 2008/04/29(火) 21:38:26 ID:6CNjdJyS0
それは、水色のサテン地にレモン色のフリルのドレスを着た人形だった。
大きさは15センチ位、普通の女児玩具の様だ。
リカとかジェニー?とかみたいな可愛らしいアニメ顔ではなくて、
睫毛の長い濃い顔を、正面よりややこちらへ向けている。俺は拍子抜けした。
何か物凄いモノがあるんじゃないかと思ったのだ。
どれだかの人形の写真を撮りたいと言う従弟を残して、俺は建物を後にした。

建物を出ると坂は右に折れ、先刻上がって来た石段の中程に出る様だ。
俺は木立の中の石畳を道なりに下る。
ああ、これも時計まわりなんだな…とふとさっきの事が頭を過った。
その時になって初めて気がついた。
しゃり、しゃり、しゃり、しゃり……。
立ち止まった俺の斜め後ろで、妙な音がしている。
動物が草を踏み分ける音でもなければ、何かを削る音でもない。
アルミホイルを擦り合わせる音が一番近いか。薄い金属片が触れ合う音に似ていた。
左手の茂みの中から。
しゃり、しゃり、しゃりり、しゃ、しゃ、しゃ、しゃ。
音が速く、近くなる。
それと同時に、頭がくん!と引かれて喉が詰まる感じがした。
ささささささささ…。
音。それに引かれて首が左へ向こうとする。
見てはいけない、音の正体を知りたくない、突然そんな感覚に襲われ、
なのに、頭の中では分かっているのに、顔がそちらを向こうとする。
音がすぐ側まで来ている!顔は真横を向く。俺は目を瞑った。
「…何やってんだ?」
従弟の声だった。
喉が詰まる感じがなくなり、首が自然に元に戻った。
目を開けると、石段の踊り場に当たる部分にヤツがいた。

949 時計まわり4/4 ◆BxZntdZHxQ sage New! 2008/04/29(火) 21:39:04 ID:6CNjdJyS0
ヤツは銜えた煙草をペコペコ上下させながら、デジカメをいじっていた。
「境内禁煙だろ。」
「だからまだ火はつけてませんよーだ。」
少しホッとしながら、耳はまだ音の行方を探っていた。少しずつ離れて行く様だ。
「あれ、何の音かなぁ。シャリシャリ言ってるの。」
俺に言われて従弟は暫く耳を澄ませていたが、
「下の道路で何かやってる音じゃないの?電線の工事してたよ。」
そう言って、さして興味もなさそうに先に下りて行ってしまった。
俺もヤツの後をついて行くと、鳥居の正面の商店がシャッターを下ろす処だった。
勿論シャッターの音はシャリシャリとは言っていない。

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