Categories: 洒落怖

侵入

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278 本当にあった怖い名無し sage 2009/07/31(金) 00:46:00 ID:rdvrKJi/0
意識を取り戻したとき、俺の全身は冷え切っていた。潮風に吹かれ続けたためだ。
砂浜の上に起きあがり、頭の中が整理されるまでしばらく呆然としていた。
周りにはあの溺死体もなく、そこから落ちたはずの肉片も小生物も、何の痕跡も浜辺には残っていなかった。
夢だったのか、と思った。だが、あの生々しい感触は鮮烈に覚えている。
胸がむかむかして俺はその場に吐いた。例えあの体験が夢でも耐え難い不快感だ。
民宿で出された料理を残らず砂浜にぶちまけ、涙がにじんだ目でその吐瀉物を見ていた。
その吐瀉物の一部が動いた。いや、一部ではない。何カ所も何かが動いている。
俺は酸っぱい臭いを堪えながら顔を近づけてみた。胃液にまみれてもがいていたのは何匹ものフナムシだった。
俺が気絶している間に口から入り込んだのか? そんなことがあるのか?
それともあれは現実に起こったことで、あいつに潜り込んでいたフナムシが胃に残ってしまったのか?
何倍もの不快感が俺を貫いた。もう吐く物は残っていないのに俺は吐き続けた。
えづきながら俺は色んな事を考えたが何を考えたのかよく覚えていない。
内臓が出るほど吐く、と言うが、本当に内臓を出してしまいたかった。出して洗いたい気分だった。

279 本当にあった怖い名無し 2009/07/31(金) 00:47:01 ID:rdvrKJi/0
そんな俺を懐中電灯の明かりが照らした。そして心配そうに声をかけられた。民宿の女将だった。
夜の散歩から一向に戻らない俺を心配して探しに来たと言う。
俺は涙ながらに今起きたことを話した。話ながら二回ほど吐いた。もう何も出なかった。
とにかく俺は民宿に戻り、もう一度風呂に入った。その頃には流石に落ち着いていた。
風呂から上がると、女将が連絡したのか、駐在所から来たという二人の警察官が俺を待っていた。
俺は警察官に浜辺での体験を話したが、あまり信じている様子ではなかった。
既に警察官達は砂浜を確認したが、吐瀉物以外、何の異常もないと言うのだ。
夜も遅いというので警察官達は引き上げ、俺も寝ることにした。
異常な体験の後なので眠れるか心配だったが、体力を消耗したためか、意外なほどぐっすりと眠った。
翌朝、まだ心配そうな女将に言って朝食は断らせてもらった。食べても胃が受け付けなかっただろう。
俺はもう一度警察官達と現場を確認したが、溺死体の痕跡はやはり何も残っていなかった。
明るい砂浜に立つと昨夜の記憶に確信が持てなくなってくる。フナムシなんていくらでもいるのだ。
結局俺は泥酔して浜辺で幻覚を見たことになった。缶ビール一本が事の始まりにされたのだ。
警察の対応としてはそんなものだろう。文句を付ける気はない。俺はそのままその町を離れた。

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