Categories: 洒落怖

この怖い話は約 3 分で読めます。

108 本当にあった怖い名無し sage 2009/04/28(火) 00:49:21 ID:ag4WP3EV0
友人らに相談しようにも、皆には『彼』の姿が見えないのですから何とも説明のしようがありません。
下手をすれば私の頭がおかしくなっているのだと受け取られる可能性もあります。
恐怖心に苛まれつつも変人だとか臆病者だと思われたくないという気持ちを捨てられない、
これは若さゆえの矜持でありましょう。
あいつは得体の知れないものに取りつかれていると言って
始終怯えているなどと笑われると恥ずかしいという見栄が勝っていたのです。
ですから友人達には一切その話はしないようにして、『彼』のことを気にしないよう努めました。
何せ『彼』は危害を加えることのない上に学校でしか姿を見せないのですから、
一歩校外に出てしまえばもう恐ろしい思いをすることはありません。
元より楽天的な性格も手伝って、無理矢理にではありますが、
表面上は平穏な日々を送っておりました。

そうして一週間が過ぎた頃、ついに『彼』が学校外の場所に姿を現したのです。
それは部活を終えての帰宅途中、電車を待つホームの上でした。
ふと向かいのホームに目を遣ると、真正面に『彼』が立っているのです。
表情はわかりません。気をつけの姿勢で真っ直ぐにこちらを見ているようでした。
私もぼうっと『彼』を見ていました。
電車がホームに入って来るまでの間、お互い身じろぎもせず視線を交わしていました。
どうやって電車に乗り込んだのかは覚えていません。
いつの間にか揺れる電車の中でしっかりと吊り革を掴んでおりました。
その手が次第に汗ばみ、かたかたと震えだすのを抑えることができませんでした。
『彼』が校外に出て来てしまった。
しかも私の目の前に立ってじっと私を見つめていた。
あれは私を追い掛けて来たのだ。
きっと私は『彼』にとり殺される。
あまりの恐怖に吐き気がこみ上げてくるのを堪え、何とか無事家に辿り着いたときには
恥も外聞も無くぼろぼろと泣き崩れてしまいました。

109 本当にあった怖い名無し 2009/04/28(火) 00:50:29 ID:ag4WP3EV0
今考えてみればホームで見たのは『彼』ではなかったのかもしれません。
あの駅を最寄りにしているのは私の学校の生徒だけではありませんし、
他校の生徒を『彼』と見間違えてしまった可能性は大いにあります。
しかし私にはあれは間違いなく『彼』であったように思えるのです。
その理由として、翌日から『彼』の姿を目にすることが一切なくなったからです。

『彼』を駅で見た翌日、楽天的な私とは言えど、さすがに学校に行く気にはなりませんでした。
けれども事情を知らない母は私を学校へ送り出そうとします。
頭痛がするとか吐き気がするとかありきたりの言い訳を重ねてはみましたが、
仮病など通用するはずもなく、私はさっさと送り出されてしまいました。
いっそ学校をさぼってしまおうかなどとも考えましたが
どうせ『彼』は校外にも現れるのですから無駄なことです。
人でないもの相手に何をどうしようもないと肚をきめて、
ほとんどやけくそのような気持ちで登校したところがどこにも『彼』の姿がないのです。
それから三日ほどは私も警戒心いっぱいに過ごしていたのですが、一向に『彼』は現れません。
そうなると調子のいいもので、この一週間くらいのことは夢でも見ていた気になり、
すっかり元気を取り戻した私はまた以前のように気楽な高校生活を過ごしたのでした。

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