Categories: 洒落怖

黒いモノ

この怖い話は約 3 分で読めます。

アパートについたのは十一時頃だった。
呼び鈴を押しても反応が無く、ノブを回したらドアは開いた。
木村は部屋の隅で布団をかぶり膝を抱えて座っていた。
一体どうしたのか聞いてもただ首を振るばかりで、彼が落ち着くまで僕は冷蔵庫から拝借したビールを飲んでいた。
その時から部屋の異様な雰囲気を感じていたが僕は黙っていた。
十分程してやっと彼は口を開いた。
「触ってしまった。」

273 3 sage New! 2009/04/12(日) 16:13:06 ID:DdIVoAiK0
「便所で用をたしていたらドアが少し開いていたのに気づいたんだ。俺は面白半分でそこに黒い影がいるんじゃないかと思って覗いたんだ。」
木村の顔はやつれていて目の焦点が合っていなかった。
「でも隙間は真っ暗で何も見えなかった。だから俺は隙間に手を入れてみたんだ。そしたら…」
彼は全身をガタガタと震わせていた。額には脂汗が浮かび呼吸も荒かった。
「この手を見てくれ。」
彼の手には無数の発疹ができていて先端は黒くなっていた。何度も引っ掻いたのか皮膚は赤くなっていて血が滲んでいた。
僕はそれを見て背筋が凍り、全身に鳥肌が立った。
「すごく痛くて痒いんだ。どうだ鳥肌もんだろ。」
口元を歪めてそう言う木村の目は笑っていなかった。
「それにすごく寒い。医者に診てもらったんだが、原因不明だそうだ。」
暫し沈黙が流れる。
「もうすぐ俺は死ぬ、そんな予感がする。死ぬ前に誰かに話しておきたかった。」
僕は彼にかける言葉も見つからなかったし、してやれることも思い浮かばなかった。

突如部屋の空気が変わった。木村は布団にうずくまりその震えを強めた。僕は全身の毛が逆立つような感覚を覚え、冷汗が滴り落ちてきた。
押し入れで何かが暴れるような音が聞こえ始め、徐々にそれは大きくなっていく。
今思えばその音は押入れから響いていたのではなく、耳元で聞こえていたのかもしれない。部屋はおろか、襖にも揺れが伝わっていなかった記憶がある。
鼓膜がおかしくなる程に音が大きくなった時、突然その音が止まる。
同時に木村がこの世のものとは思えない、耳をつんざくような絶叫をあげた。
僕は靴を掴んで部屋を飛び出した。
逃げ出したい気持ちを必死に抑えていたが限界だった。
終電は間に合わなかったので近くのカプセルホテルで夜を明かした。
とても眠れなかったが、近くに人がいるので少しは安心できた。
翌日、罪の意識から彼のアパートへ向かった。だが彼の姿は無く。その後彼が帰ってくることも無かった。
警察や大家は夜逃げと判断して、彼の家族も失踪届を出したっきり何もしなかった。

274 4 sage New! 2009/04/12(日) 16:14:37 ID:DdIVoAiK0
数年後、用事で近くを寄ることがあったついでにそのアパートへ赴いたがとっくに取り壊されていて駐車場になっていた。
このままでは寄った甲斐がないので、いつぞやの神主に会うことにした。
僕があのアパートについて聞くと神主は顔をしかめながらも話してくれた。
黒い影はあの後も出たらしい。何人かがあの部屋に入ったらしいがすぐに出て行ったとのことだ。
神主も何度か相談を受けたのだが、入居者が共通して言うことは黒くてわけのわからないものがいるとのことだったらしい。
黒くてわけのわからないもの。僕はてっきり人の形をしているのかと思っていたがその造形は無茶苦茶だったらしい。
では木村は何故黒い影が自分の方を向いていると解ったのだろうか。

Page: 1 2

bronco

Share
Published by
bronco

Recent Posts

迷い

霊とかとは全然関係ない話なんだ…

4年 ago

血雪

全国的にずいぶん雪がふったね。…

4年 ago

母親の影

私が小6の時の夏休み、薄暗い明…

4年 ago

閉じ込められる

彼はエレベーターの管理、修理を…

4年 ago

彼女からの電話

もう4年くらい経つのかな・・・…

4年 ago

テープレコーダー

ある男が一人で登山に出かけたま…

4年 ago