Categories: 洒落怖

くすぐる

この怖い話は約 4 分で読めます。

幼い頃、タンカー事件をきっかけに初めて聞いたこの話を、俺は母からも、伯父や伯母からも繰り返し耳にした。
田舎に行った折りに祖母にも聞いてみたが、祖母はこの話を余りしたがろうとはしなかった。
やがて、俺も大人になり、この不思議な話も記憶の片隅に追いやられて行った。
 

914 本当にあった怖い名無し sage 2009/01/31(土) 03:09:11 ID:rF+wQv5U0
母には弟がいた。
末っ子の靖叔父さんだ。
3人の伯父達は船乗りになったが、靖叔父さんは大学を出た後警察官になった。
警察官として勤務していた叔父さんは、ある日突然失踪した。
叔父さんの失踪には不可解な点も多かったが、生死も不明なまま20年以上が経過していた。
俺に靖叔父さんの記憶はないのだが、祖母や母は叔父さんの事で心を痛め続けていた。
財産の整理などの必要もあって、叔父さんは失踪宣告を受け法律上は「死んだ」ことになっていた。
だが、祖母は叔父さんが生きていると信じていたようだ。
叔父さんの行方を捜して方々に手を尽くし、霊能者にまで相談していたそうだ。
霊能者によると、靖叔父さんは「生きている」ということだった。
靖叔父さんは祖母の夢枕に度々立ったが、いつも祖母に背を向けていた。
霊能者の話によれば、夢枕に立った人が背を向けているのは、その人が生きている証拠らしい。
祖母は叔父さんの心配をしながら10年ほど前に亡くなった。

915 本当にあった怖い名無し sage 2009/01/31(土) 03:10:25 ID:rF+wQv5U0
去年の年末、体調を崩したという母の見舞いを兼ねて俺は仕事帰りに実家に寄った。
思いの他、母は元気だった。
「鬼の霍乱だな」などと言って笑う俺に母が言った。
「最近ね、毎晩のように靖が夢枕に立ってね・・・いつも背中を向けていたんだけど、一昨日、夢枕に立ったとき私の方を向いていたんだ」
「考えすぎだよ、母さん。体調を崩して気弱になっているだけだよ」
「でもね、母さんね、足を『くすぐられた』んだよ。子供の頃に話した話、覚えているでしょ?」
俺は迷信だよと言って取り合わなかった。
俺は遅くなったクリスマスプレゼントを両親に渡し、「大晦日と正月はカミさんと子供を連れてまた帰ってくるから」と言って実家を後にした。

7日まで休みを貰っていた俺は実家で親父と酒を飲みながらゴロゴロと過ごしていた。
5日の夕方だった。
突然伯母から電話が掛かってきた。
嫁が電話に出て、母に取り次いだ。
どうやら叔父が見つかったらしい。
遺品から伯母に連絡が入ったようなのだが、愛知県在住で姑の介護がある伯母は直ぐには千葉の警察署まで行く事は出来ない。
代わりに確認に行って欲しいと言う事だった。

916 本当にあった怖い名無し sage 2009/01/31(土) 03:11:54 ID:rF+wQv5U0
警察署の担当者に電話を入れ、翌日、俺は両親を乗せて車を走らせた。
遺体は、どうやら叔父さんに間違いないようだった。
遺品はごく僅かだった。
数百円しか入っていない財布と、遺書の書かれた文庫本、駅前などで配られているポケットティッシュとそれらが収められたセカンドバッグくらいだった。
火葬・埋葬には色々と煩雑な手続きがあるようだ。
やがて、田舎から伯父たちが上京してきた。
叔父の遺骨は母の実家の菩提寺の納骨堂に納められるらしい。
年明けからの忙しさもあって、殆ど面識もなかった叔父の死に、冷たいようだが俺に特別な感慨はなかった。
ただ、文庫本の余白にボールペンで書き殴られた叔父の遺書の日付は、叔父が母に顔を向けて夢枕に立ち、母が足を「くすぐられた」と言う日の日付だった。
叔父は母に別れを告げに来たのだろうか?
霊魂や死後の世界が本当にあるのか、俺には判らない。
ただ、自ら命を絶った叔父の死が、どのような理由があったかは判らないが、生前に兄姉親族を頼る事も出来なかった彼の孤独な境遇が悲しい。

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