Categories: 洒落怖

去年の出来事

この怖い話は約 4 分で読めます。

酒をやめてから1週間位たったある日、営業先へ行く途中の電車でついウトウトしてしまった。
真っ暗な中立ち尽くす俺。またかと思ったが、その時の夢は違った。
いつもはカクカク、ニヤニヤしながら近付いて来るオヤジが、頭を倒したまま目をカッと見開き、
歯を食いしばったまま一歩も近付いて来ない。その内、口を開いて「アーッ、アーッ」と言いはじめた。
そこで俺は誰かの呼ぶ声に目が覚めた。

257 去年の出来事 3/5 sage 2010/10/31(日) 01:14:00 ID:B9Z258Oh0
「兄さん、兄さん」と知らない爺さんが俺の肩を揺すっている。
パッと見に頑固そうな爺さんだったんで、イビキでもかいていて怒られるんだと思い
「すいません」と謝ってしまった。
爺さんは笑いながら「馬鹿言ってんじゃねえ。ちょっと聞きたい事があるから次の駅で降りな」と言う。
俺は「???」となりながら、何となく「はあ」と言ってしまい。次の駅で爺さんと一緒に降りた。

駅で降りてから、客先の訪問を思い出し、断りの電話を入れることになってしまった。
爺さんは「あそこの店で休むぞ」と言って、駅前の喫茶店にどんどん入って行った。
俺は訳がわからないまま店に入り、俺はコーヒー、爺さんはコーヒーとサンドイッチを注文した。
店員が戻ると、突然爺さんが「兄さん死ぬぞ。自分でも何かしら自覚してんだろ」と言う。
俺は何か急に涙が出てしまい、泣きながら「はい」と答えた。
一連の経緯を話したんだが、爺さんは黙々と飲んだり食ったりしていた。
食い終わった爺さんが「これから俺の家に行くぞ。ちょっと時間がかかるから、会社は早退しろ」
と言うので、会社には出先で体調が悪くなり、病院に寄って帰宅するということにした。

喫茶店を出て、爺さんの後を付いて家まで行ったんだが、爺さんは黙ったまま一言も喋らない。
電車に乗り、さっき降りた駅より3駅先の駅の住宅街に、爺さんの家はあった。
家に入ると、やさしそうな婆さんに挨拶し、和室に案内されてお茶を頂いた。
爺さんは別の部屋に行っていたが、30分位すると数珠と経本を持って和室に現れた。
俺の前に正座し、お茶を飲んだ後に話し始めた。

「今まで良く生きていたな。兄さんのお守りさんの力がなかったら、
俺と会うことも無かっただろう」

俺はまた涙が出た。

258 去年の出来事 4/5 sage 2010/10/31(日) 01:16:22 ID:B9Z258Oh0
「俺はな、○○寺の次男坊なんだよ。小さい時から経文を読んだり、親父の真似事をしてる内に
自然と目に見えない物が見えて聞こえるようになった。だけど、そんなに強い力がある訳じゃねえ。
電車に兄さんが乗って来た時から、かなり性質の悪い物に魅入られてるのが分かった。
まともに相手したら俺なんか直ぐに憑り殺されるだろ。兄貴だったら何とでもなると思うが、
死んじまってるし、跡継ぎは役に立たねえ。だから、初めの内は見なかったことにする気だったんだよ。
兄さんはその男が原因だと思ってるけどな、本当におっかねえのはな、その男を憑り殺した奴なんだよ。
男が落ちたのも偶然の事故じゃねえ。兄さんの上に落ちて殺そうとしたんだよ。
そうやってどんどん殺して取り込んで強くなる。ああなったら手が付けられねえ、何でもかんでも
見境なく殺しやがる。そんな奴の気配が兄さんの周りにあったんだ。
だけどちょっと様子が妙だった。気配はするんだが、残りカスみてえなもんだ。
気配を探ってくと、お守りさんが必死になって兄さんへの干渉を食い止めてるんだ。
お守りさんは、そっちの相手をするのが精一杯で、変な男の相手をしてる暇がねえんだよ。
それで、兄さんは変な男の影響をもろに受けちまった訳だ。
今のうちなら、その変な男を払って、おっかねえ奴と兄さんとの縁を切っちまえばいい。
これなら俺でも何とかなると思ったよ。それで、居眠りしてる兄さんを起こしたんだよ。
助けられる者を見捨てるのは、気分の良いもんじゃねえからな。」

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