Categories: 洒落怖

井戸

この怖い話は約 3 分で読めます。

「井戸ってあれ?先生が言ってた」
「そうそう。今はもう慰霊碑も立ってるしさ、行ってみようよ」

俺も、他の友人も、異論はなかった。俺たちはバスで通っていたから、スクールバスが学校へ来るまでは暇だったし、ちょうどいい時間潰しになると思ったからだ。
慰霊碑が立ってるってことは供養もされているだろうし、こんな真昼間なら怖くない、って。

SHRが終わってすぐ、俺たちは井戸へ向かった。
教員・来客用の駐車場のすぐ横にある茂みの奥にあるのは、先生から聞いて知っていた。
茂みと言ったってそんなに深くもなければ大きくもない。ともすれば、駐車場側から碑が見えるようなところだ。
ちなみに、井戸の周りは、慰霊碑と井戸の曰くをつづった看板、そして井戸の名前を書いた碑が、それぞれ立っている。
俺たちは、あっさり井戸へ辿りつくと、一人ずつ覗き込んでみた。

「なんか見える?」
「いや、何にも。お前も覗いてみろよ」

そう言われて、俺も覗く。何も見えない。当たり前だ、枯れ井戸なんだから。
けれど、その井戸を覗き込んだ瞬間、なんだか背筋がひんやりとした。

(…なんか、気持ち悪い)

俺の率直な感想はまさにそれだった。枯れている上、年月を重ねて積もった土のせいで、井戸というよりはただの穴だ。しかも、落ちたって登ってこれそうな深さだというのに、それでもなんだか気持ち悪い。
すぐに覗きこむのをやめて、俺は「もう帰ろう」と言った。

「拍子抜けした。ただの穴だな、あれ」

きっと皆つまらなかったんだろう、確かに碑と看板がなければ、本当にただの穴だ。
それに適当な相槌を打ちながら、俺たちは茂みの外へと出た。

538 本当にあった怖い名無し sage New! 2010/09/04(土) 23:46:42 ID:ch36mYis0
「暑いな、今日」

まだ5月なのに、もう真夏なんじゃないかってぐらい暑かった。
茂みの外へ出た途端、汗が出るぐらい――いや、待て。おかしい。
俺は、思わず井戸のある茂みを振り返った。井戸の名前が書かれた碑が、茂みから顔を覗かせている。
そして、井戸はあの碑のすぐ後ろに、ある。

「なんだよ、どうしたんだ」
「…いや、別に」

友人に呼ばれ、止めていた足を動かす間にも、太陽はじりじりと照りつけ、汗が出てきた。
アスファルトのせいだろうか、遠くの方には薄い蜃気楼のようなものが見える。
暑い、本当に暑い。

でも、茂みの中は、とても涼しかったのだ。

俺たちが歩き、汗を流している場所から数メートル程度の場所で、碑が見える程度に草や木の刈られた場所にあるのに、あそこはとても涼しかった。
かといって風通しがいい場所では決してない。どちらかといえば、熱の籠もるような木々の生え方をしている場所だ。
それに気付いた途端、先程感じた気持ち悪さが再び俺を襲った。
なんとも言えない、怖いわけではない、どちらかというと悪寒に近い感じ。

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