Categories: 洒落怖

娘の寝言とせんとくんと九官鳥

この怖い話は約 3 分で読めます。

あるところに一組のカップルが同棲していました。
しかし男に良い縁談話が舞い込んできたので、男は女と別れる決心をしました。
一緒に住んでいる女に対して、料理がまずいとか態度が悪いとか散々難癖をつけて、
「俺たち別れよう」と告げて、女を追い出してしまいました。
そして良いとこのお嬢さんと婚約をかわしました。

その後、風の便りに女が山を越えた向こうの湖で入水自殺したことを知りました。
男は悲しむよりもほっと安心してしまいました。
女が結婚式に乗り込んでくることを恐れていたのです。

一年後、夫婦には可愛らしい女の子が生まれました。
それから何事も無く5年が過ぎたのですが、女の子はまったく言葉を話す気配が無いのです。
さらに、ある頃から男は悪夢に悩まされるようになりました。

親子で川の字になって眠りにつくと、夢の中にどろどろの沼のような場所が見えてきて、
その沼の底から別れた女が浮かび上がってくると、藻の絡まった手を伸ばしてきて、
「ヒ○シ、ヒ○シ(男の名前)」を呼びながら、男のほうへと迫ってくるのです。
男は恐怖で汗びっしょりになって目覚める、ということが毎晩のように続きました。

そしてある夜のこと、いつものように悪夢で飛び起きたのですが、目を覚ましたはずなのに、
「ヒ○シ、ヒ○シ」とまだ自分を呼ぶ声がするのです。

恐る恐るその声のもとへと辿ってゆくと、それは自分の隣で眠っている娘が寝言で呼んでいるのです。
寝言ですが、しかしその声はまぎれもなく別れた女のものだったのでした。

男は恐怖で身体が震えるのを覚えるのでした。

651 娘の寝言とせんとくんと九官鳥 2/5 sage 2010/04/25(日) 07:53:14 ID:OcF0tSHH0
次の朝、男がどうしたものかと思案していると、ぶるるんとスーパーカブの音も高らかに、
やって来たのは郵便局生まれの〒さんでした。
「はい市民税の通知です、ってそんな場合ではない、お主、このままではとんでもないことになるぞ!」

男は〒さんにかくかくしかじかと、全てのあらましを打ち明けたのでした。
話を聞いた〒さんは家をぐるりと見渡すと、男に尋ねました。
「お主、最近になって水を換えるようなことをしなかったかな?」

男には思い当たることがありました。
この家では昔から井戸水を使っていたのですが、1年前から井戸が枯れてきたので、
市に頼んで水道を引いてもらっていたのです。
そして水道水を取水している川の上流には、あの女が自殺した湖があったのでした。
男が悪夢に悩まされるようになったのは、水道に切り替えた時期とぴたりと一致したのです。

そのことに気づいた男が、あらためて思い出したかのようにガクガク震えていると、
〒さんは諭すように男に語りかけました。
「娘さんがその女の生まれ変わりかどうか確かめるために、これから娘さんを連れて湖に行きなさい」

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