Categories: 洒落怖

娘の寝言とせんとくんと九官鳥

この怖い話は約 3 分で読めます。

そして男にキーホルダーぐらいの大きさの「せんとくん」のマスコットを渡して、こう言い聞かせました。
「このお守りに願をかけるのじゃ。しっかりと念じるのだぞ」

「せんとくん」を首にかけながら、〒さんに男は尋ねました。
「もしも娘があの女の生まれ変わりだとわかったら、どうすれば良いのでしょうか?」

〒さんは男の目を見据えて言いました。
「そのときは娘を湖に沈めてしまうがよかろう」

652 娘の寝言とせんとくんと九官鳥 3/5 sage 2010/04/25(日) 07:53:59 ID:OcF0tSHH0
男は娘を助手席に乗せて、山向こうの湖へと車を走らせました。
あれほど寝言で男の名前を呼んでいた娘は、男が呼びかけても、普段通りにまったく口をきかなくなりました。
そんな娘を横目で見ながら、男は「自分に娘を沈めるなんてことができるだろうか」と迷っていました。

しかし〒さんの言葉を思い出して、そうした不安を振り払うかのように、
「せんとくん、どうか娘をお護りください、娘をお護りください」と念じ続けました。

駐車場に車を停めて向かった湖には、日が高いのにもかかわらず、やけに静かで誰もいませんでした。
貸しボート屋でボートを借りて娘を乗せて湖に漕ぎ出すと、生暖かい風が襟首を撫でていきました。
娘は舳先から身を乗り出して、もの珍しそうに手で水面を叩いていました。
その間も男はひたすら「せんとくん、娘をお護りください」と念じ続けました。

湖の真ん中あたりに漕ぎ出て、周囲を見渡してふと夢で見た景色と見覚えがあるなと思ったそのときです。
水面を覗き込んでいた娘がくるりと男のほうを振り向いて、あの女の声で話しかけてきたのです。
「また私と別れるつもりなの?」
驚きのあまり茫然自失となった男は、思わず娘を湖に突き落とそうとしました。

その瞬間、首にかけていたお守りのせんとくんからバチンと電撃がはじけ飛んだのです。
はっと自分を取り戻した男は、ひっしと娘を抱きしめました。

どのくらいの時間抱きしめていたのかわかりません、まだボートで湖の真ん中で漂っていることに
気づいた男は、あわてて岸に漕ぎ戻ると、娘を車に乗せて家路へと急いだのでした。

653 娘の寝言とせんとくんと九官鳥 4/5 sage 2010/04/25(日) 08:05:24 ID:OcF0tSHH0
家の前では〒さんが待ち構えていました。なぜかその手にはカゴに入った九官鳥をぶら下げていました。
〒さんは全てを見通していたらしく、男と娘の姿を見ると「よきかなよきかな」と満足そうに微笑みました。
「もしもお主が娘の無事ではなく、自らの保身を願っていたなら、二人とも生きては帰れなかっただろう」

男は照れくさそうにしながら、〒さんに尋ねました「これで終わったのでしょうか」
〒さんは答えました「いや、これからが肝心じゃて」

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