Categories: 洒落怖

廃墟

この怖い話は約 3 分で読めます。

Hを見ると、下を覗き込んだまま動かない。何も言わない。
コイツ、また俺らをおどかそうとしてるなと思ったんだが、
近づいてみてすぐそうじゃない事がわかった。
Hはすごい量の汗をかいていて、小刻みに震えていた。
全身が硬直しているという様子で、口からよだれを垂らしていた。
「おい!おい!しっかりしろ!」と揺さぶっても反応しない。
次の瞬間、震えはさらに大きくなり、「カッ!・・・カハッ!」と、
まるで首を絞められているかのように喉から息が漏れる音がした。
Hは完全に白目を剥いて、口から泡を吹き始めた。

716 廃墟 4/6 sage New! 2009/08/09(日) 14:23:19 ID:kgjCD1sk0
穴の中から、ボソボソつぶやいてるような声が聞こえた。

「ヤバイぞ、早くここを出よう」そう言うとKはHを担いだ。
俺もKも顔面蒼白だった。
床板を踏み外さないように慎重に、素早く歩いた。
出口が物凄く遠くに感じられた。
後ろから何か得体の知れないものが迫ってる気がして、泣きそうになった。

建物を出ると、あれほどやかましく鳴いていたセミが、嘘みたいに静かになっていた。
藪の中を、死に物狂いで走ってようやく車にたどり着いた。
峠を降りて町に近づく途中で、Hの意識が戻った。
Hは泣きながら、しきりに「助けて、助けて」と「寒い」を繰り返した。

そのまま俺らは麓のお寺へ向かった。
何故か、病院よりもお寺に行く方が正しく思えた。

・・・寺での事は人に話すなと住職に言われたので端折ります。
とにかく、Hは無事に戻ってきた。

718 廃墟 5/6 sage New! 2009/08/09(日) 14:24:53 ID:kgjCD1sk0
で、Hが何を見たのか。
泣きながら、震えながら、Hが一度だけ話してくれた。

穴を覗きこむと、下に空間があるのがわかった。
ライトで照らすと、そこは地下室のようだった。
床にネズミと思われる小動物の骨が大量に散乱していた。
その時、ライトの光の中を何かが横切った。
その瞬間、金縛りに遭ったように動けなくなった。
「ソイツ」はライトの光の中にゆっくり入ってきた。
真っ白な皮膚でガリガリに痩せた、男か女かは判らないが裸の人間のようだった。
なにかボソボソとつぶやいているようだった。
ボサボサの髪の毛がまばらに生えた頭が、ユラユラしながら穴のすぐ真下に来た。
ソイツはゆっくりと顔を上げた。顔はしわくちゃで、目は閉じていた。
その目がゆっくりと開いた。
白目や黒目の無い、血の塊のような真っ赤な目。
そして、憎悪むき出しの表情でHの顔を見上げた。
それを見た瞬間に、息ができなくなった。
そこから先は覚えていない。

719 廃墟 6/6 sage New! 2009/08/09(日) 14:25:51 ID:kgjCD1sk0
俺もKも、ソイツの姿を見てはいないけど、
あの、ボソボソと何かをつぶやく声は今も覚えている。
ちなみに俺やHの身には別に特別な事は起きていない(今のところ)。
あれから4年経つけど、いまだにHは時々お寺に通っているらしい。

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