Categories: 洒落怖

この怖い話は約 3 分で読めます。

957 鞄1/3 ◆BxZntdZHxQ sage 2008/03/08(土) 00:04:23 ID:3Glkgwhz0
母方の祖父母の金婚式の年、親族揃って熱海のホテルでお祝いをやった。
宴会場での夕食の後、俺は二人の従弟、智宏と郁と一緒に部屋に戻った。
智宏は酔っ払って寝ており、下戸の俺とまだ中学生だった郁はTVを見ながら、
腹がこなれたらもう一度温泉に浸かっておこうなんて話してた。
そこへ、用事があって郁のオフクロさんがやって来た。
叔母さんはあれこれ郁に言い、話が終わると、ふっと足元の俺達の鞄を見た。
「直ちゃん、これあんたの鞄?」
言われて俺が「そうです」と答えると、
叔母は開いていたスポーツバッグのファスナーを、さっと閉めた。
叔母は長く勤めた看護師で、きっちりした人だ。
俺のだらしなさが気になったのだろう。

寝ている智宏を残し別棟にある大浴場に行くと、
郁はその道すがら、以前にも自分の友人が母に鞄を閉められたと言った。
「几帳面だと思うでしょう?」
俺が頷くと、郁はアメニティの入っていたホテルのビニール巾着をぶらぶらさせた。
「あれ、違うんです。母はね、怖いんですよ。」

郁の話はこうだった。
叔母が若い頃、秋口に八人ばかりのグループで長野に行ったそうだ。
旅館では四人ずつ、二つの部屋に分けて通された。
叔母が荷物を開けていると、そこへ隣の部屋の四人がやって来た。
「あっちの部屋、何か暗い感じ。」
叔母らが見に行くと、仲間の荷物が入口の側の壁際にちんまりとまとまっている。
確かにそこは妙な空気で、部屋の奥まで入りたくない雰囲気だと全員が思った。

959 鞄2/3やり直し ◆BxZntdZHxQ sage 2008/03/08(土) 00:07:45 ID:3Glkgwhz0
「…空気が淀んでるんじゃないの?」
叔母と同室でグループのリーダー的な子がそう言って、ずかずかと部屋に入る。
窓を開けると、重たい気配が少しだけ和らいだ気がした。
「なんなら部屋逆にしようか。いいよね?」
リーダーに問われて皆同意したが、叔母は嫌で厭で仕方なかった。
彼女も何故か部屋の壁際を歩いて、窓との間を往復したのだ。
見えていないのに。気が付いていないのに。

叔母には見えた。
部屋の中央に、大きな異形の男が座っていた。
鬼、だと思った。
そうとしか表現のしようがない。

叔母達とその部屋の子達は部屋を交換して、荷物をそれぞれの部屋に移した。
異常のなかった部屋の方で夜明かしして、隣室で休んだ者はない。
何事もなく会はお開きになり、叔母も家へ帰った。

住んでいたアパートに帰り付いたのは夜も更けた頃で、
叔母は寝室の入口の、開いたままの襖の際に鞄を放ったらかしてベッドに入った。
一泊旅行で大した洗濯物もないし、明日起きてから荷解きすればいい。
若い頃の叔母は、俺と大差なかった様だ。
しかしいざ寝ようとしたら、気になる事を思い出した。
ウォークマンどうしたっけ…?
当時はまだ結構いい値段だったらしいそれを、旅行に持って行ったのだ。
MDやCDですらなく、中身はカセットテープ。
集合場所までの電車では聴いた憶えがあったが、帰路では鞄から出していない。
まさか忘れて来たのではないかと不安になって、叔母は鞄の方へ向かった。

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