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たぶん既出かも知れないが、映画『切腹』

武勇の誉れ高い井伊家の江戸邸に、津雲半四郎と名乗る浪人が訪れた。
曰く「生活に困窮し、これ以上生き恥をさらして生きるよりは、いっそ武士らしく切腹して果てたい。
ついては最後の死に場所に、当家の庭先をお借りしたい」と言う。
邸の奥で、家老・斎藤勘解由は「また来おったか」と苦り切った。
過日、食い詰めた浪人がさる大名家の庭先で同様の申し入れをしたが、その志を買われてその家に抱えられるようになった。
それだけならば良かった。その者は真実切腹しようと思ってやってきたのだ。
しかしその後、江戸の街では諸大名家に二番煎じの浪人者が押し寄せ、
厄介ごとを嫌う諸家は幾許かの金を渡してそれを追い払うという、いわば浪人による強請たかり紛いの行為が横行していた。

庭先に通された半四郎を前に、斎藤は言う。「お主はまさか違うと思うが、全く武士の風上にも置けぬ困った風潮でな」
これを聞いた半四郎は、自分は違う、本気である、とあくまで言った。
切腹の準備が整えられる間に、斎藤は半四郎に語り始めた。
「先日も何某という若い侍が、同じように言ってきたことがあった」

588 : 2/4 : 2012/04/13(金) 19:18:16.53 ID:BtyJHxQx0
半四郎に先立ち井伊邸の門を叩いた者は、千々岩求女(ちぢいわ もとめ)という若侍だった。
井伊家は求女の申し状を聞くと一室に通し、死装束を用意するから待てと言い渡した。
死装束とは口実で、運ばれてくるのは金に違いないと思った求女は、「こんなに上手くいくなんて」とほくそ笑んだ。
しかし井伊家は昨今の浪人の致しように憤慨しており、その風潮を戒めるため、また井伊家の武勇を天下に知らしめるため、
見せしめとして求女を本当に切腹させることに決めていた。眼前に死装束が運ばれると、求女は青くなって言った。
「どうか、どうか一両日のご猶予を!一両日待ってさえ下されば、必ず戻ってきて腹を切ります!」。
しかしそれは許されず、求女は庭先に引き立てられた。そこにはしっかりと切腹の場が整えられていた。
さらに求女は愕然とする。用意されていたのは竹光である自分の刀だった。
求女を待たせている間、家臣がその刀を検め竹光であることを知りながら、あえてそれで腹を切らせようとしているのだった。
求女は狼狽するが、家臣は矢継ぎ早に言葉を浴びせて急かした。
やがて求女は破れかぶれで竹光を腹に突き立てるが、切れるはずはない。
それでも求女は何度も刀を腹に突き立て、血が滲み始める。井伊の家臣団は嘲笑いながらそれを眺めていた。
求女が思い切り体重を掛けると、ついに腹が貫かれた。しかし、介錯人が刀を振り下ろす気配がない。
地獄のような苦痛に苦しむ求女が舌を噛み切ると、ようやくその首が打たれた。

589 : 本当にあった怖い名無し : 2012/04/13(金) 19:20:28.34 ID:BtyJHxQx0

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