この怖い話は約 3 分で読めます。

472 門の中の3/4 ◆BxZntdZHxQ sage 2007/11/07(水) 14:20:26 ID:zBtiX6aE0
正直に言うと、俺はリナさんにちょっと憧れていた。
当時俺がハマっていたアニメの話なんかをしても、知らないなりに
「これはこういうことなのよ」なんて知恵を付けてくれたりした。
無知な俺は彼女がオカルトが好きなんだと思っていたが、
今考えるとちょっと違ったのかも知れない。
こんな地味なリナさんの彼氏が、ヤンキーで知られたS先輩でなければ、
俺ももう少し積極的に彼女と関われたかも知れない。
だが、リナさんにとっての俺は、後輩の一人でしかなかっただろう。

陽が傾き始めて、辺りの空気が黄色っぽくなっていた。
みんなは思い思いに門の中を覗いていたが、男の姿なんかなかった。
誰とも無く「もう帰ろう」と言い始め、ホッとした俺もその尻馬に
乗った。
工場沿いの丁字路を県道側へ戻り始めてふと見ると、リナさんだけが
引き返さず、まだ工場の方を見ていた。
「先輩、何か見えるんスか?」
彼女の所まで言ってこっそり聞くと、リナさんは首を振った。
「あれは本当のヒトだよね?」
ちらりと目配せした彼女の視線の先を追うと、
工場の敷地内の駐車スペースの外れの木の下に、事務服姿の女がいた。
痩せて顔色の悪い女は、一心に何かを見つめている。
薄暗くなってきたとは言え、俺にもリナさんと全く同じ物が見えている。
幽霊では無いだろう。
ただ、女が見ている物を考えた時、俺は少し寒くなった。
女は、男の霊が立つと言う辺りを見ている。
「帰りましょう。」
俺はリナさんを促した。彼女は「うん」と応えたが、
歩きながら何度か振り返っていた様だった。

473 門の中の4/4さいご ◆BxZntdZHxQ sage 2007/11/07(水) 14:21:17 ID:zBtiX6aE0
S先輩がバイクの事故で亡くなったと聞いたのは、年が明けてからだった。
3年はほとんど学校に来なくなっていた時期で、その頃には俺も、
リナさんとは疎遠になっていた。
夕方、横道から出てきた先輩のバイクがトラックに突っ込んで、
ほとんど即死だったらしい。
現場がどこか聞いて、俺は嫌な気持ちになった。
それは俺達が工場の裏へ向かった丁字路が、県道に抜けている部分だった。
俺はリナさんが先輩に何か話したのかも知れないと思ったが、
確認は出来無かった。
卒業式で最後に姿を見るまで、ふたつきばかりの間に、何回か廊下で
すれ違ったが、俺は小さく頭を下げるのが精一杯だった。
リナさんは関西の大学に進んだ筈だが、今どうしているのかも知らない。
冷たいようだが、確かめることが少し怖かった。

車は駅に向かい、県道に出た。
話を聞き終わりしゅんとしていた従妹は、不意に元気な声を上げた。
「ほら、あれ!あそこの搬入口に出るんだって!」
従妹の指し示す方角には、真新しい、大きな商業ビルが立っていた。
俺は軽い目眩がした。
そこは以前、部品工場があった場所だ。

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