この怖い話は約 3 分で読めます。

418 本当にあった怖い名無し sage 05/02/14 20:21:51 ID:FPWk/C6U0
僕の町内には「アーちゃん」という人が住んでいた。
アーちゃんは年中、肌色の肌着と肌色のモモヒキを身に付け
パンクしてホイールの歪んだ自転車で町を走り回る人畜無害の怪人だ。
年齢は僕が小学生のときで6、70歳くらい、試合後のボクサーみたいな顔をしている。
いつも酔っ払っているみたいな動きと口調。
口癖は「ぼん、どこの子や」(僕は実際、これ以外の台詞を聞いたことが無い)

アーちゃんはその風貌からか、僕らの恐怖と嘲笑の的だった。
まず音。キーキー、ガタガタという自転車の音で僕らはアーちゃんの接近を知る。
僕らは何食わぬ顔で、向こうからやってくるアーちゃんに近づく。
決まって自転車を止めるアーちゃん。僕らの顔をほとんど閉じたまぶたで見渡す。
そしていつもの台詞。「ぼん、どこの子や」
笑ったら敗け。そして全力でダッシュ。大抵はみんなで爆笑しながら。
振り返ったことは無い。アーちゃんはどんな顔をしていただろうか。

419 本当にあった怖い名無し sage 05/02/14 20:24:09 ID:FPWk/C6U0
僕はアーちゃんのことを忘れていた。

昨日、僕と友人は美術館にいた。ある作家の彫刻展だ。
友人は家具メーカーに勤める彫刻家の卵(こういう言い方をすると友人は怒る)で
僕は時々彼に誘われてこういうところに来るのだ。
友人とは幼馴染で、幼い頃におばちゃんにちんこを揉まれるという得難い思い出も共有している親友だ。
その友人と二人で美術館の駐車場で煙草を喫っているとボロボロのおじいさんに話かけられた。
「兄ちゃん、煙草くれへんか」
おじいさんは僕の差し出したセブンスターを「ええ煙草や」と言いながら実に美味そうに喫った。
別れ際、僕が10本ほど残ったセブンスターをあげると、ボロボロのおじいさんは僕と友人に向かって言った。
「ぼん、どこの子や」

帰りの車中で友人とアーちゃんの話をした。小学校での話。
一度アーちゃんのことが学校で問題になったことがある。アーちゃんが何かしたわけではない。
「アーちゃん」という呼び方が問題になったのだ。

420 本当にあった怖い名無し sage 05/02/14 20:25:33 ID:FPWk/C6U0
「アホのアーちゃん」。アーちゃんのアーはアホのアーなのだ。
よそから引っ越してきた生徒の母親がPTAで騒いだらしい。
「ボクは別にいいと思うんやけどね」と担任は前置きしてから言った。
ハゲた額に長髪、髭ボーボー。父兄に人気は無かったが、僕はこの担任が好きだった。
「一応議題に挙がってるし」
自宅で猫を14匹飼っている担任はアーちゃんを「本名」で「さん付け」で呼ぶように僕らに言った。
未来の彫刻家の卵が手を上げた。「僕らアーちゃんの本名知りません」
猫のせいで近所とのトラブルが絶えず、引越しを考えている担任は面倒くさそうに答えた。
「じゃあ調べといて」
家に帰り、僕はまず母親に聞いてみたが「知りません」となぜか怒られた。
隣のおばちゃんも知らなかったし、嫌な顔をした。
おじいちゃんなら、と思い祖父に聞いてみたが「アホのアーちゃんや~」とうれしそうに言うだけで
やっぱり知らなかった。

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