この怖い話は約 3 分で読めます。

「今考えるとさ」
友人は助手席で言った。「名前が無いって凄いよな」
本当にそのとおりだ。僕らはアーちゃんのことを何も知らなかった。
アーちゃんというあだ名と、おそらくは根も葉もない数々の噂。
僕らのアーちゃんはそれだけでできていた。

421 本当にあった怖い名無し sage 05/02/14 20:27:14 ID:FPWk/C6U0
アーちゃんはザリガニを採って食べる。
アーちゃんはカタツムリとか虫も食べる。
アーちゃんは野良犬や野良猫も食べる。
アーちゃんは野良猫、野良犬の駆除で市からお金を貰っている。
アーちゃんは昔、天才だった。
アーちゃんは腹が減ると飼い犬や飼い猫もさらって食べる。
アーちゃんは強姦魔。
アーちゃんには子供がいたが殺して食べた。
アーちゃんは本当は大富豪。
アーちゃんは…。

僕は友人と思い出せる限りのアーちゃんの噂を並べてみた。
今思えばただの笑い話だが、これらの噂のいくつかを僕らは信じていたし、
これらの噂がアーちゃんへの恐怖の源だった。そして普段のアーちゃんとのギャップが
僕らにはどうしようもなく可笑しかった。
誓って言うがアーちゃんは本当に人畜無害で、少なくとも僕の知る限りアーちゃんが
事件を起こしたことはない。
ただ僕と友人はこれらの噂の中でひとつだけ、事実を確かめたことがある。
僕と友人が高校生の時のことだ。
そしてそれが僕と友人の最後のアーちゃんの思い出だった。

422 本当にあった怖い名無し sage 05/02/14 20:29:22 ID:FPWk/C6U0
友人は高校の時、町内のコンビニでアルバイトをしていた。
バイト中、たまにアーちゃんが来ることがあったそうだ。
アーちゃんは決まって大量の砂糖を買っていった。多い時で5kg、少なくても3kg。

暇を持て余していた僕は友人からこの話を聞いて、アーちゃんを尾けようと提案した。
友人も乗り気で、僕らは次の日学校を休んで近所をぶらついた。
アーちゃんはすぐに見つかった。あの自転車に乗っている。
この時僕は、自分がアーちゃんのことを忘れ始めていたことに気がついた。
「今思ったけど」友人が言う。「俺、アーちゃんの家知らんわ」
アーちゃんの家は町を流れるドブ川の上に建っていた。地面に乗っているのは3分の1くらいで
後は川にせり出している。本当に、本当に小さな小屋だった。
アーちゃんは路上(といっても玄関を出てすぐ)で七輪を使いザリガニを焼いていた。
老人が路地でザリガニを焼く。シュールだった。僕は何かあまり見てはいけないものを
見た気がして「帰ろ」と友人を促した。その時アーちゃんがこちらを見た。
「ぼん、どこの子や」
僕と友人は走って逃げた。
いつもの台詞、いつものダッシュ。ただ僕と友人はなぜか笑えなかった。
あたりにはザリガニの焼ける、ドブ川のような匂いがしていた。

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