この怖い話は約 3 分で読めます。

609 本当にあった怖い名無し New! 2007/10/22(月) 15:56:34 ID:9dn3iZXu0

 十二月に入り、子どもたちが本格的にピリピリし出すと、残業が増えました。
事務給につられたせいもありますが、受験生にやらせる小テスト作りに取り組んでいたからです。
週に二度実施される社会と理科のテストを作っていますと、時計の針は夜の十時を越えます。
生徒はもちろん講師は皆お帰りになり、社員の先生と二人、十一時を回るか回らないかという時間になって、一緒に塾に鍵をかけて帰ることもしばしばでした。
 わたしは、本当は早く帰りたい気持ちでいっぱいでした。面倒だという理由の他に、非常階段がある廊下を目の前にしたブースで教材研究をしなければならなかったからです。
受付側にある講師室で、社員の先生とふたりで仕事が出来ればどれほど良かったことでしょう。
でも、生徒にテストの内容がバレるという理由から、端っこに追いつめられて夕方から仕事をしていたわたしは、何だか怖いから夜は隣でやらせてくれとは、気恥ずかしくて言うことが出来なかったのです。

610 本当にあった怖い名無し New! 2007/10/22(月) 15:57:20 ID:9dn3iZXu0
最初、それは夕の五時を過ぎた頃に始まります。階段を上ってくる音がまずして、降りて行くのが聞こえます。
子どもたちは、私の部屋の前を横切り、廊下のトイレに行くためにドアを出入りします。
「黒猫のおじさん、今裏から上がってきた?」
 子どもたちは、必ず首を横に振りました。わたしは、どうしてもトイレに行きたい時は、情けない話ですが男の子がやってきた時についていくだけになりました。
 それでも、夜の九時頃までは良いのです。外にいる「ひと」は、相変わらず元気に上り降りしていますが、生徒や先生が大勢いるから、まだ塾の中は騒然としていて、怖がる余地がないほど活気があります。
 しかし、十時近くになって人がいなくなってくると堪りませんでした。もしも教え子に受験生が六人もいなければ、集団授業のクラスなど持っていなければ、さっさと辞めてしまっていたかもしれません。

611 本当にあった怖い名無し New! 2007/10/22(月) 15:58:14 ID:9dn3iZXu0
 その足音は、いつも一定の歩調を保っていました。遅すぎもせず、早すぎもせず、機械的な調子で上がってきては、くるりとターンをして降りていきます。
 しばらくすると再び上がってきて、運動部のメニューのようです。そのように、上がり降りの行為にはまるで意味がないようでした。それがわたしには逆に怖かったのですが。
 わたしは、それが一体何であるかを、よく分かりませんでした。
 もしかしたら人間かもしれないし、人間ではないかもしれません。
 とにかく、どちらにしても子どもに良くないものであったら困ります。わたしは一度、社員の先生に「変な人が上がってきているかもしれない」と相談をしました。
すると「裏は出入りが自由になってきているから、もしも何かあったら、毅然と追い返して下さい」と平気で凄い言葉を返され、わたしは今にも泣きそうな顔で頷きました。

Page: 1 2 3

bronco

Share
Published by
bronco

Recent Posts

迷い

霊とかとは全然関係ない話なんだ…

4年 ago

血雪

全国的にずいぶん雪がふったね。…

4年 ago

母親の影

私が小6の時の夏休み、薄暗い明…

4年 ago

閉じ込められる

彼はエレベーターの管理、修理を…

4年 ago

彼女からの電話

もう4年くらい経つのかな・・・…

4年 ago

テープレコーダー

ある男が一人で登山に出かけたま…

4年 ago