Categories: 洒落怖

物乞い

この怖い話は約 2 分で読めます。

940 最後です。③ sage New! 2013/03/27(水) 18:11:19.78 ID:XMTvCNbI0
あと一本、この路地を抜けたら絶対自分の知っている道に出る。
それはよく判っていた。だから、そのアーケードには誰もいなくてその出口の場所に、
おじいさんがうずくまっているのだろうと思った。
「お嬢さん。花を、花を私にくれませんか」ここまでかいくぐって来られた運が、とうとう尽きたと本気で思った。
向こうに見える植え込みに何とかタンポポが見えたような気もしたが、それはこの老人の前を素通りすることになる。
取ってきますと言うだけの度胸が自分にはなかった。
とっととこの難題を片づけて、まともな方へ帰りたいと本気で思った。花はどこにあるのか。
その時、ハッとした。去年の入学式で渡された造花のコサージュが、鞄のポケットに突っ込みっぱなしになっている筈だ。
あった、これだって花だ!
おじいさんの前までツカツカと歩み寄り、目の前にその若干ヨレヨレになったコサージュを示してやった。
「こんなのしかありませんけど!」と思いっきり震えた声で見得を切る自分に、おじいさんは「お有難う御座います」と初めて礼を口にし、品物を両手で受け取った。
ダッシュで家に帰った時から、こうしてまた桜を眺めている何年も経った今まで、あれから自分には何のオカルト的な異常も起きていない。
今はただ、あの難題をふっかけられた時に一つも自分に深く関わる物を要求されなかった己の運の強さに、感心するばかりである。
乱文長文失礼しました。あのアーケードにはその後行く機会が多々ありましたが、何のトラブルもない普通のアーケードでした。

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