Categories: 洒落怖

境界線

この怖い話は約 3 分で読めます。

気付かれてないのか?
そう思うと余計動けなくなった。男は瞬きもせずただどこかを凝視している。視線を追ってみたがただ林が続いているだけだった。

どれくらいの間そのままだったろうか。いつしか足が尋常じゃなく震え出しこのままではその場にくずおれてしまうのも時間の問題だった。
全身から汗が流れ何故か目からも涙が溢れてきた。このままじゃダメだ。何がダメかも判らないまま絶望的な気分になった。

405 本当にあった怖い名無し sage New! 2014/03/16(日) 23:56:56.10 ID:lusbhP500
いきなり背後から声がした。
「○○くーん!」
自分を呼んでいる! その瞬間俺は声の方へ駆け出していた。全速力で走った。躓いたら間違いなく足を捻っていただろうが構わなかった。
ほどなく社員の一人と遭遇し、無事車まで戻ることができた。俺の普通じゃない様子を見て皆驚いたがただ道に迷ったとしか言わなかった。どうせ信じて貰えないだろうと思ったからだった。

帰りの車の中で、社員が俺がどこで迷ったのかを地図で確認しようとして、俺も記憶を辿りながら地図上の道をなぞった。
てっきり特徴的な竹藪が目印になるかと思ったのに誰もそんなものは見かけなかったと言う。俺は首を傾げながら地図を睨んでいた。
地形は無視して道だけを見ていたら、やがてぐるりと曲線を描いているところが見つかった。ここだ!
俺はその辺りを指で押さえた。それを見た社員が声を挙げた。
「そんなとこまで行ったの?ギリギリじゃない」
その言葉を聞いてハッとした。その道の先で複数の土地の境界線が交わっており、その中に例の反対者の土地も入っていたのだ。

それが判った瞬間、あの時の怖気が再び背筋を這い上がった。そして不意に気付いた。男が俺に気づかなかったはずはないのだ。
だって男の存在に気づく前は普通に雑草を掻き分け音を立てて歩いていたのだから。静かな山の中であの距離で聞こえないはずがない。
男はこちらに気づいていた。しかしこちらを見なかった。重要なのは俺の存在そのものではなかった。
俺が境界線を越えるか否か。それのみが男の関心事だったのだ。
ずっと見ていた一点。あれは境界線だったに違いない。
もし俺があの竹藪の向こう側まで回り込んでいたら……。

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