この怖い話は約 3 分で読めます。

真っ黒い、服も肌も髪もただただ真っ黒な女性が、項垂れ立っている。
髪に隠れたその下には何があるのか・・・
嫌な想像だけが脳裏を駆け巡る。

690 エレベータ(3/3) sage 2010/06/06(日) 09:53:30 ID:14aPT6K90
9階

きっとドアの目の前にやつはいるに違いない。
今日でガクガクを震える男性を待っていたのは誰もいない。いつもの廊下の風景だった。

「良かった。何もなかった・・・」
ホッ安堵が過ぎり、胸を撫で下ろす。
だがそれもほんのつかの間のことだった。

・・・・・・
おかしい。
いつまで経ってもドアが開かない。
そのときようやく彼は気づいた。
ガラス越しにウッスラと映る、自分の背後に立っている女性の姿を–

「その後、その男性はどうなったのさ?」
「翌日、出社して来なかった男性を心配して様子を見に来た同僚に発見されたよ。
 エレベータの中で蹲っているところを、ね。」
虚空を見つめていた彼の視線が、ふとこちらに移る。
「君は、男性が見たものは真実だと思うかい?それは幽霊だった、と。」
そもそもこの話が作り話か、それとも実話なのかから始めてして欲しいと思った。
ただ、もし実話だというなら、幽霊だと・・・
「長い黒髪の女性。大体怪談話の幽霊の6割近くはそういう外見をしている。
 白のワンピースを来てるとか、そういうのも定番だな。
 ハゲた叔父さんとか、神経質なおばさんとか、もっといろいろタイプがあっていいと思わないかい?」
そう言われれば、そうかもしれない。シチュエーションによっては、戦時中の兵隊だったり、ナースだったり
その場にゆかりのある『定番』となった幽霊の話は多い。
「僕は幽霊の話を聞くときには、長い髪の女性が出てくるものはまず作り話だと一蹴することにしてる。
 わざわざ話に取り上げたりもしない。
 でも、今日僕がどうしてこの話を君に聞かせたか分かるかい?」
分からない。素直にそう答えた。

691 エレベータ(3/3)+1 sage 2010/06/06(日) 09:59:05 ID:14aPT6K90
「この話の出所となったアパートは、ここから電車で30分くらいの場所でね。
 興味本位にいろいろ調べてみたのさ。
 でも、アパートになる前は、その土地は何年も更地。
 近隣にも自殺した、とか殺人事件がなんて話も聞かない。
 そもそも、男性がこの体験をするまで、エレベータが勝手に動く。
 という噂はあっても、件の女性の話は全くなかったんだ。」
「全然?」
「ああ、全くさ。
 そしてこの男性の後も、最初は多少アパートで不審な女性を~
 みたいな話はあったみたいだが、結局今ではエレベータそのものの噂はあっても
 女性を見たという話は聞かなくなった。」
・・・
「僕は思うんだ。
 長い髪の女性というのは、裏を返せばそういう存在に多くの人は、恐怖や不気味さを感じる。
 男性が見たものが、本物の幽霊だったのか、それとも男性の夢だったのか、はたまた『誰か』が彼にそれを見せたのか・・・
 いずれにしても、人が恐怖を抱くものは、例え現実でなくとも突きつけられると恐ろしいものなんだろうね。」

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