この怖い話は約 3 分で読めます。

三枚目は家の中で車椅子に座る風と母親と姉妹が並んでいる写真だった。
風の頭には包帯が巻かれていて痛々しい、風が退院して来た時の、とにかくこれが一番最近のものだろう。
葬式の時にも気になったのだがこの写真でも梓さんがひどく痩せていた。
当時どこかの弁護士事務所で働いていた梓さんは学生の俺からすると大人の女だった。
そうかこの頃にはもう激痩せしてたんだな、と思った。
父親が亡くなり、弟も事故で脳に障害を持つ身になってしまった。
ひょっとして自分にも、と言う恐れもあったのだろう。
この写真から1年もしないうちに風は脳にできた血腫が原因で死んでしまったのである。
酒の力も手伝ってかまた俺は泣けてきてしまった。

俺は涙をこらえながら、写真を時間軸で並べてひとわたり説明を始めた。
「そのお地蔵さんを潰したすぐ後に、親父さんが脳梗塞で倒れて・・・
一時は退院してリハビリなんかもやってたんですが結局3年ほどで亡くなったんですよ」

666 クリッパ- sage New! 2006/10/29(日) 19:58:54 ID:A+4164hu0
「ふ~ん」
「でもなんか脳をやると性格も変わっちゃうらしくて、もう昔の親父じゃないって風は言ってましたね」
「へぇ」
師匠は気の無い返事をしながらも3枚の写真に興味深げに見入っている。
「で親父さんが亡くなって1年もしないうちに今度は風が自宅のベランダから落ちて、
やっぱり頭を打って脳挫傷?みたいので入院したんです」
「ちなみにこれ地蔵じゃないぞ」
「え?」
「道祖神だと思う、あまり詳しくないんだが」
「道祖神・・・ですか」
師匠の専門は仏教美術なのだが、道祖神と言うのは土着の原始信仰のようなものであるらしい。
「旅人の道中の安全祈願、まぁ道標の様な目的だったり、子孫繁栄とか家族和合とか五穀豊穣だったりな、
まぁいろいろだ。悪霊や災難に立ち塞がる、と言う意味で村落の入口に祀られる場合もある」
「子孫繁栄・・・ですか」
「この真ん中に男と女が彫られてるだろ、男の方が削れて黒くなってるけどな、
エロチックな意味合いがある場合もあるんだよ」
「待ってください 男が黒いですって!?」
俺の背中に電気の様なものが走った。1枚目の写真を俺に見せながら師匠が言った。
「ああ、これだ、どうした?」
確かにその道祖神とやらには男と女が彫ってあり、男が黒く削り取られていた。
「風が落ちて、入院した時に警察が来たって言うんですよ。
妹の美知ちゃんから聞いたんですけど・・・風の奴ウワゴトで病院の人に
『誰かに押された、黒い影しか見えなかった』って言ったらしいんですね」
「ほう」
「でも家族は誰もいなかったし、玄関の鍵も閉まってて、結局事故って事になったって言うんです」
そうだった。風が退院して自宅療養になって見舞いに行った時に聞いてみたが、
風は黒い影の話を覚えていなかった。言った記憶すらなかった。
しかし、その話をきっかけに呪いの話になり、元気そうな風の様子を見て安心もしていた俺は
(脳波が乱れたり痙攣を起すと言った後遺症はあったらしい)
その『地蔵の呪い』の話にオカルト心をくすぐられ、
嫌がる風に写真を送ってくれと約束させたのだった。

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bronco

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