この怖い話は約 3 分で読めます。

525 11/13 sage New! 2011/08/14(日) 19:46:04.08 ID:zBvOhT5L0
私が鏡面を朱色に縫られた手鏡を手渡すとお婆ちゃんは、「見ちゃあいけん、母ちゃんのところへ行っとき。」と、私を孵化室の外へ出しました。
私は母と姉のところへ行きましたが、母に何と話していいものか、何も言えずに母に抱きついていると、弟とお婆ちゃんが戻ってきました。
私は歩いてくる弟を見て、(ああなんでもなかったんだ。良かった)とホッとしましたが、何か、弟に違和感を感じました。

話してみると、確かに弟です。
一緒に孵化室に行ったことや、昨日のこと、一昨日のことも覚えています
しかし、どこか、何かが違うのです。
母も、弟に何かを感じたのでしょう、お婆ちゃんに「お母ちゃん、まさか・・・」と聞きました。
お婆ちゃんは悲しそうに頷くだけでした。
母が、弟を抱きしめてワンワンと泣いたのを覚えています。
弟はキョトンとしていました。
姉は弟を薄気味悪そうに見ていましたが、母が泣くのを見て、一緒に泣き出しました。

526 12/13 sage New! 2011/08/14(日) 19:49:37.11 ID:zBvOhT5L0
しばらくするとお爺ちゃんが帰ってきました。
「ダメじゃ、間に合わなんだ」そう言って悲しそうに首を振りました。
「婆さん、誰かは分からんが遅うても2、3日の内じゃろう、喪服を出して風に当てといてくれ」
そういうとお爺ちゃんは弟を抱きしめ、「すまんのう、お爺ちゃんが寝とったけえ、こがあなことに・・・ほんまにすまんのう」
お爺ちゃんはボロボロと涙を流して謝りました。弟は「何?お爺ちゃん痛いよ」等言っていました。
その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、やはりソレは弟ではありませんでした。
後からお爺ちゃんは言いました、
「お天道さんの一番高い刻と夜の一番深い刻に生まれた雛は、御役目を持っとるんじゃ。じゃけえ、殺さにゃあいけんのよ。」
「夜に生まれた雛も『ヒギョウさま』になるの?」と、私は聞きました。
「誰に・・・ほうか、婆さんが言うたんか。
いや、違う。夜に生まれたんはもっともっと恐ろしいもんになるんじゃ。」そういってお爺さんは薄気味わるそうに孵化室のほうを見ました。

527 13/13 sage New! 2011/08/14(日) 19:52:20.94 ID:zBvOhT5L0
このときの話はこれで終わりです。

後に、私が高校の時に、実家が養鶏場を営んでいる同級生がいました。
そいつに『ヒギョウさま』について聞いてみると、最初は何のことか分からない様子でしたが、あの夏の出来事を話すと、「ああ、『言わし鶏』のことだな。」と言っていました。
何でも、今ではオートメーション化が進み、センサーとタイマーにより、自動的に12時と24時に孵りそうな玉子は排除されるのだそうです。

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