この怖い話は約 3 分で読めます。

490 追跡  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/09/26(水) 22:07:17 ID:gAYKdkL30
タクシーは郊外の道を走る。
降りるべき場所だけはわかっていたので、俺たちは座っているだけで良かった。
「人面疽」とは、体の一部に人間の顔のような出来物が浮かび上がる現象だ。いや、病気と言っていいのだろうか。オカルト好きなら知っているだろうが、一般人にはあまり馴染みのない名前だろう。
そういえば、師匠が人面疽について語っていたことがあった気がする。結構最近のことだったかも知れない。
なにを話していたのだったか。ぎゅっと目を瞑るが、どうしても思い出せない。
隣には膝の上に小さなバッグを乗せた彼女が、どこか暗い表情で窓の外を見ていた。
やがてタクシーは目的地に到着する。周囲はすっかり暗くなっていた。
運賃を二人で払い、車から降りようとすると運転手が急に声を顰めて、「でもお客さん。どうして気づいたんですか」と言いながら左手の手袋のソロソロとずらす素振りをみせた。
一瞬俺が息をのむと、すぐに彼は冗談ですよと快活に笑って『空車』の表示を出しながら車を発進させ、去っていった。
どうやら元々が怪談好きだったらしい。
俺はもう二度と拾わないようにそのタクシーのナンバーを覚えた。
「で、ここからは」
彼女があたりを見る。
公園の入り口付近で、街灯が一つ今にも消えそうに瞬いている。フェンスを風が揺らす音がかすかに聞こえる。
俺はペンライトをお尻のポケットから出して『追跡』を開く。
いつなんどきあの人が気まぐれを起こすかわからないので、最低限の明かりはできるだけ持ち歩くことにしていた。

491 追跡  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/09/26(水) 22:08:34 ID:gAYKdkL30
「ここから東へ歩きます」
と言ったものの、二人とも土地勘がなく困ってしまった。近くで周辺の地図を描いた看板を見つけて、その現在位置からかろうじて方角を割り出す。
ページ内を読み進めると、どうやら廃工場にたどり着くらしい。
顔を上げるが、まだそのシルエットは見えない。川が近いらしく、かすかに湿った風が頬を撫でていく。寒さに上着の襟を直した。

  うしろすがたに会った。

急にこんな一文が出てくる。前後を読んでも、よくわからない。誰かの後ろ姿を見たということだろうか。
住宅街なのだろうが、寂れていて俺たちの他に人影もない。右手には背の低い雑草が生い茂る空き地があり、左手には高い塀が続いている。明かりといえば、思い出したように数十メートル間隔で街灯が立っているだけだ。
その道の向こう側から、誰かの足音が聞こえ始めた。そしてほどなくして、暗闇の中から中肉中背の男性の背中が現れた。
確かにこちらに向かって歩いて来ているのに、それはどう見ても後ろ姿なのだった。服だけを逆に着ているわけではない。夜にこんなひとけのない場所で、後ろ向きに歩いている人なんてどう考えてもまともな人間じゃない。
俺は見てみぬ振りをしながら、それをやり過ごそうと道の端に寄って早足で通り過ぎた。
そして、どんなツラしてるんだとこっそり振り返ってみると、ゾクリと首筋に冷たいものが走った。
後ろ姿だった。

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