この怖い話は約 3 分で読めます。
これは今からちょうど10年も前の話だが、聞いてくれ。
まだ、看護師が看護婦と呼ばれていた時代だ。
当時、俺は某医科大学の看護学部の学生だった。
短い夏休みが終わると同時くらいに、国家試験前の最後の看護実習が始まる。
俺は付属の大学病院で国家試験の前に実習生として、主任となる看護師さんとともに担当の患者さんを受け持っていた。
そこで俺は整形外科棟である患者さんと出会った。
今まで診た患者さんは、老人か中年の方々が多かったが、今回は17歳の女の子であった。
彼女の名前はA美といい、右足を失っており義足を用いながらリハビリを行っている状態であった。
A美は男の看護師である俺のことが珍しいらしく、いろいろ俺について聞いてきた。
内容はいかにも年頃の高校生の質問って感じで、
彼女はいるの?好きな人は?とか、学部に男の人って他にもいるの?
っていう普通に答えられるレベルの質問だった。
559 本当にあった怖い名無し 2012/09/23(日) 02:17:25.92 ID:ZIpLKT/f0
A美の部屋は個室なんだが、様子を見に行くといつも笑っていてくれていた。
そんな、A美との他愛もない会話は辛い実習の中で唯一心から楽しめるものとなった。
たまに、長いおしゃべりが指導主任に見つかって怒られることもあったが、A美は小声で
「この後もがんばって」
とか、いろいろ声をかけてくれた。
学生生活最後の実習も終わりに近づき、実習終了まであと1週間と迫った日にお別れの挨拶がてらに担当していただいた患者さんひとりひとりに病室に行く際にお礼を言って回った。
もちろんA美にも伝えた。
560 本当にあった怖い名無し 2012/09/23(日) 02:18:44.64 ID:ZIpLKT/f0
それを知ったA美は、
「Tくん(←俺の名前)、あと1週間かあ」
と言いながら一瞬悲しげな表情を見せるが、
「最後にTくんとどうしても行ってみたいところがあるんだけど、お願い!一緒に行こ!」
と、ねだられた。
A美の様態は依然、車椅子なしでは長距離の移動は困難であり、俺自身の独断での行動なんてバレたら国家試験はもちろんのこと、遺族の方に訴えられるなんてことも想像でき、はっきりと断った。
それでもA美は諦めようとせず、
「ホントにホントに最後のお願い!」
「それは絶対にダメ、A美ちゃんになんかあったらどうするの?!」
といってキツイ口調で突き放した。
A美はそれでもねだり続けてきた。
561 本当にあった怖い名無し 2012/09/23(日) 02:19:55.62 ID:ZIpLKT/f0
せめて、場所だけでの聞いておこうと思い、場所はどこなのか聞いた。
そこでA美は落ち着いた口調で、口元を緩ませ「秘密」とだけ答えた。
あの時、背中がゾーってなったのは今でも覚えている。
結局A美の要望は断り、残りの実習を終わらせることだけ考えた。
それからは、A美は俺とは口を利かなくなった。