この怖い話は約 3 分で読めます。

395 怖い夢  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2006/12/02(土) 14:37:04 ID:Q8VwWIU/0
「一人でボーリングしてたら、やたらガーターばっかりなんだ。なんでこんな
 調子悪いかなと思ってると、トイレの前で誰かが手招きしてるんだよ。なんだ
 あれって思いながら続けてると、またガーター連発。知らないだろうけど私、
 アベレージで180は行くんだよ。ありえないわけ。それでまたちらっと
 トイレの方を見たら、誰かがすっと中に消えるところだったんだけど、
 その手がヒラヒラまた手招きしてる。気になってそっちへ行ってみたら、
 清掃中って張り紙がしてあった。でも確かにナカに誰か入っていったから、
 かまわずズカズカ乗り込んだら、ナカ、どうなってたと思う。女子トイレ
 だったはずなのに、なぜか男子トイレで、しかもゾンビみたいなやつらが
 便器の前にずらっと並んでるわけ。それも行列を作って。パニックになって
 私が叫んだら、そいつらが一斉にこっちを振り向いて、見るなコラみたいな
 ことを言いながらこっちに近づいて来ようとし始めたんだよ。目なんか
 半分垂れ下がってるやつとかいるし。そいつらがみんな皮がズルズルになった
 手を、こう、ぐっと伸ばして・・・・・・」

そこまで聞いて、俺は京介さんを止めた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。それってもしかして、ていうか、
 もしかしなくても夢ですよね」
「そうだよ。すげー怖い夢」
京介さんは両手をを胸の前に伸ばした格好のままで、きょとんとしていた。
そのころから他人の夢の話は怖くない、という達観をしていた俺は尻のあたり
がムズムズするような感覚を味わっていた。

396 怖い夢 ラスト  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2006/12/02(土) 14:40:30 ID:Q8VwWIU/0
自分の見た怖い夢の話をする人は、相手の反応が悪いとやたら力が入りはじめ
余計に上滑りをしていくものなのだ。
「まあ聞けよ。そのゾンビどもから逃げたあとが凄かったんだ」
話を無理やり再開した京介さんの冒険談を俺は俯いてじっと聞いていた。
この人は、朝っぱらから自分の見た怖い夢を語るために俺を呼び出したらしい。
まるっきりいつもの京介さんらしくない。いや、京介さんらしいのか。
夢の話は続く。
俺は俯いたまま、やがて涙をこぼした。
「・・・・・・それで、自分の部屋まで逃げてきたところで、て、おい。なんで泣く。
 おい。泣くな。なんで泣くんだ」
俺は自然にあふれ出る涙を止めることができなかった。
視線の端には、水が抜かれた大きな水槽がある。
京介さんを長い間苦しめてきた、その水槽が。
「泣くなってば、おい。困ったな。泣くなよ」
俺はすべてが終わったことを、そのとき初めて知ったのだった。
去年の夏から続く一連の悪夢が終わったことを。
結局俺は、さいごは蚊帳の外で。なんの役にも立てず。
京介さんや彼女を助けた人たちの長い夜を、俺は翌朝のパチンコをする夢で
過ごしていたのだった。
「まいったな。泣くほど怖いのか。こどもかキミは」
泣くほど情けなくて、恥ずべきで、そしてポケットに入れた魔除けのお守りを
すべて投げ出したくなるほど、嬉しかった。
京介さんの、夢を見た朝が、どうしようもなく嬉しかった。

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