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「それで師匠、」
照らされた足元だけを見ながら俺は問い掛けた。
「何故拾ってきたその石が師匠の子供という喩えになるんです?」
「あぁそれな。その勾玉を偶然見つけて家に持ち帰ったけど、何ともなかったって言ったろ?本当に何ともなかったんだ。」
時折森の中を照らしながら師匠は続ける。
「勾玉って本来は魔除けの効果があるって話したよね?でもそれは創作した術者の意図によるんだよ。
一般に知られている勾玉意外に、本来の用途とは異なる勾玉も存在する。」
極僅かだけどね、と師匠は付け加えた。
122 引っ張る 8 sageウニ 2007/10/17(水) 03:40:31 ID:vOR1i94rO
「その極僅かな勾玉を所有しているのは昔から今も、いわゆる邪教と呼ばれる狂信の方々。日本でも有名な鳥の名の付く某宗教団体じゃ、「狂玉(マガタマ)」と表記して、大切に保管してあるらしいね。」
その用途を考えると薄ら寒くなったが、師匠は続ける。
「僕はこれから行く自殺スポットでその勾玉を見つけた時、すぐにコイツの仕業だと睨んだ。」
「…それで…持ち帰ったんですか…。」
驚くというより半ば呆れつつ相づちを打った。恐いもの知らずとかそんな類じゃないのだろう。
全て解った上で尚、好奇心が勝るこの人には、銃を向けても命乞い等せず
むしろ「早く。」と新たな世界への入り口を喜んで受け入れそうな気さえする。
「ところがだよ。」
落ち着いた口調で師匠は続けた。
123 引っ張る 9 sageウニ 2007/10/17(水) 03:41:32 ID:vOR1i94rO
「何にも起きない。本当につまんない只の石なんだ。あれだけの数の人間を呼び寄せ、魂を喰らっていた悪意の塊だったのに、僕の前じゃ単なる石にしか過ぎなかった。」
その辺は僕の類稀な特異体質の勝利だと喜ぶべきなんだろうけどね、と笑う師匠に軌道修正の意も込めて尋ねた。
「で?結局その石がどうマズくなっていったんです?」
「あぁ、腹が立って叩き割ろうかと思ったけど、高く買い取ってくれる知り合いを思い出してやめた。それで、もっと身の近くにその石を置こうと思ったんだ。」
また頭の中で?が交差し始める。
「近くって、部屋に持ち帰ったんでしょ?それ以上どうやって石を近くに置くんです?」
そりゃ当然だろ、と言いたげに師匠は答える。「だから取り込んだんだよ。体内に。」
「は?」
思いのままを口にすると、
「だから、具体的に言うと喰った。」
最早言葉も無かった。数秒の後、「バカかアンタは!?」と言いたい衝動に駆られたが何とか堪え、次の言葉を待った。
124 引っ張る 10 sageウニ 2007/10/17(水) 03:42:16 ID:vOR1i94rO
「流石にマズかったみたいだね。余り記憶が無いんだ。途中何度か目覚めたが、無理矢理夢の中に引きずり戻される感じ。気付いた時にはその自殺の名所にいたよ。」