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153 引き出し ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/22(日) 23:25:24 ID:vbLvaS0Q0
この音響という少女には、いいように振り回されているような気がする。
「わかった。それはナシ」
肩を竦める。結局俺は気がつくと、その手の出てくるという引き出しのある寝室で現地調査することを約束させられていた。

その二日後だ。曜日は土曜。
俺は欠伸をしながら自転車をこいでいた。まだ夜も明けやらぬ早い時間。暗い空の、深みのある微妙な色彩に目を奪われながら、微かな肌寒さにシャツの裾を気にする。今日は暑くなるとニュースでやっていたはずなのに。
ガサガサと、妙にかさ張る手書きの地図を苦労して広げ、目的地を確かめる。
なんだ。もうすぐそこじゃないか。
そう思いながら角の塀を曲がると、薄闇の中に浮かび上がる小綺麗な白い三階建てのマンションが目に入った。
おいおい。高そうな所に住んでるじゃないか。高校生の身分で一人暮らしと聞いて、何様だ、と思ったがもしかすると親がかなりの金持ちなのかも知れない。
駐輪場に自転車を停め、階段を上る。向かうは三階の角部屋だ。実にけしからん。
指定されたドアの前に立つが、まだ音響の姿が見えない。ちょうど待ち合わせの時間なのに。
まだ周囲は暗く、朝のこんな早い時間に女性の部屋の前でうろうろしているのは実に気まずい。
辺りを気にしながら念のためにドアノブを捻ってみたが、やはり鍵が掛かっている。
音響を待つしかないようだ。その場でしゃがみこむ。
何故俺はこんなところでこんなことをしているのだろう。そう思いながら憂鬱な思いで額に指をあてる。
要は、寝起きにタンスの引き出しから手が出てくる幻覚を見るという緑の目の令嬢、瑠璃の、悩み解決のための現地調査だ。

156 引き出し ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/22(日) 23:30:36 ID:vbLvaS0Q0
完璧を期するならずっと部屋の中で寝ずの番をしていた方がよいのだろうが、初めて会ったうら若き少女の部屋で夜を明かすなど、俺にしても避けたいものがあった。
聞くところによると、目覚ましを掛けなくとも彼女はいつもだいたい決まった時間に目が覚めるのだという。ただ低血圧なもので、そこから起き上がるまでが長いのだとか。
そして俺と音響は、その目が覚める時間の少し前に部屋に行き、実際にその場でなにが起こっているのか確かめる、という作戦だった。
なのに、その音響が来ない。今日のために合鍵を渡されているのはヤツなのに。寝坊しやがったのか。
ドアの前でイライラしながら待つこと二十分。小さな足音とともに、ようやく音響が姿を現した。
「アホか」
思わず毒づいていた。
近づいてくるその姿は、先日のカレー屋の時とほとんど変わらないゴシックな風体だったのだ。
待ち合わせの時間に遅れてまで譲れないのか、その格好は。
問い詰めて言い訳を聞くのも空しくなるだけなので、「いつも可愛いなあ」と嫌味だけ言っておいてドアを指差し、開けろとジェスチャーをする。
音響はロクに謝りもせずに鍵を取り出すと、ドアノブにあてる。
金属が擦れる小さな音とともにドアが開かれ、二人してその中に滑り込む。
玄関からして広い。まずそこに驚く。俺の部屋とどうしても比較してしまう。
暗い中を、半ば手探りで進む。もちろん足音を殺して。余計な物音を立てて、中で眠る少女の普通の目覚めを妨げてはいけないという配慮からだ。
音響が摺りガラスの嵌め込まれたドアの前に立ち、唇に人差し指を立ててみせる。

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