この怖い話は約 3 分で読めます。

261 師匠17 sage 2008/06/29(日) 13:05:16 ID:2Ox1Ez7r0
552 名前:古い家   ◆oJUBn2VTGE [ウニ] 投稿日:2008/06/29(日) 01:25:55 ID:9x5Yw4U+0
ふいに師匠の呼吸が止まった。
僕の頬を生暖かい風が撫でていく。
時が止まったように、風の吹いてくる方向を師匠は見つめている。
正面の壁に、四角く刳り抜かれた穴がある。
両手を広げたくらいの幅のその穴の外周には木で出来た枠がある。
窓だ。
そう思った瞬間、身体の中を無数の手が這い登っていくような気持ちの悪い感覚に
襲われる。
窓には格子戸がかかっている。
その格子と格子の間の狭い隙間から、向こうの景色が微かに覗いている。
師匠がゆっくりと近づいていく。
揺らめく懐中電灯の光が、格子とその隙間とに妖しい縞模様を映し出している。
師匠が窓辺に立って、ゆっくりと息を吐く。
僕も何かに魅入られたように足を運び、師匠の隣に並ぶ。
格子の隙間から風が入り込んできている。その向こうには、暗い空間が広がってい
る。
暗いけれど、闇ではない。
遠くに黄色く光る街灯がぽつんと立っている。静かな畦道が横に伸びている。
黒々とした山なみがその果てに見える。蛙の鳴き声がかすかに聞こえる。
いったいここはどこなんだ?
応えるものはなにもなく、ただ朧夜の底の光景が僕らの前にあった。
畦道の向こうから、揺れる明かりが近づいて来るのが見える。
わずかに見下ろす。ここは地面よりも少し高い所にあるらしい。
明かりとともに畦道をやって来る人影が見えた。ここからでは遠くて、人形のよう
に小さい。
ああ。近づいてくる。

262 師匠18 sage 2008/06/29(日) 13:06:01 ID:2Ox1Ez7r0
553 名前:古い家   ◆oJUBn2VTGE [ウニ] 投稿日:2008/06/29(日) 01:29:36 ID:9x5Yw4U+0
そう思った瞬間、僕は師匠の腕を掴んだ。そして有無を言わさず窓際から引き離す。
「戻りましょう」
そう言って、入って来た部屋の戸に向かう。
胸がドン、ドン、と高鳴っている。
怖い。
怖い。
頭が、それ以外の言葉を紡ぐのを恐れている。
戸惑ったように動きの鈍い師匠から懐中電灯をもぎ取り、板張りの廊下へ先に踏み
出す。
早足で狭い廊下を抜け、仰ぐように聳える階段に足をかける。そして降りて来た時
より、もっと高くなったような気がする一段一段を、闇雲に昇っていく。
怖い。
怖い。
壁に突き当たり、左に曲がる。
折り返すとまた階段が上に続いている。どこまでも続いている。
足音が一人分しか聞こえない。
そう思った瞬間、バキィッ、という破壊音が空気を震わせた。
足が止まる。
下からだ。
僕は振り向くと、飛ぶように階段を駆け降りた。下まで着くと、嫌な音のする廊下
を走り抜け、戸が開いたままの部屋に飛び込む。
師匠が金属製の燭台を両手で振り上げ、窓の格子戸に叩きつけている。
木製の格子が1本、2本と砕けて、外に落ちていく。
僕は師匠の名前を叫んで腰のあたりに組み付いた。
その頃の僕にはまだ、けっして越えてはならない境界線というものが確かにあった
と思う。

Page: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

bronco

Recent Posts

一二様

自分の田舎の話ね。 自分の地元…

6年 ago

預かり物

学生時代に引っ越したアパートで…

6年 ago

山神トンネル

わりぃ じゃぁ、書きます ちな…

6年 ago

般若面

過去から現在まで続く、因果か何…

6年 ago

逆テケテケ

投下します。 もう十年くらい前…

6年 ago