この怖い話は約 3 分で読めます。

881 依頼 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/06(土) 23:27:28 ID:+FnIW24p0
師匠から聞いた話だ。

大学一回生の秋だった。
僕は加奈子さんというオカルト道の師匠の家に向かっていた。特に用事はないが、近くまで来たので寄ってみようと思ったのだ。
交差点で信号待ちをしていると、道路を挟んだ向こうにその師匠の姿を見つける。少し遠いのと珍しく車がバンバン通っているので、呼びかけても気づかない。
その師匠は去って行くでもなく、電信柱のそばで立ち止まったまま動いてない。
どうしたんだろうと目を凝らすと、電信柱の根元のあたりになにか落ちていて、それを見下ろしているらしかった。
どうもビニール袋に入った菓子パンのようだ。
僕の観察している前で、師匠はやがてキョロキョロと周囲を窺い始めた。
まさかと思って見ていると、スッと腰を落としてそのパンを拾い上げ、服の内側に抱え込むと足早に立ち去って行った。
拾い食いかよ。
俺は我がことのように猛烈に恥ずかしくなった。
歩行者用の信号が青になり、後を追う。
説教だな。さすがにこれは。
角を曲がってもその姿は見えない。逃げ脚、早過ぎだろう。
師匠の家に向かいながら、最近金欠気味のようだったことを思い出す。
師匠は継続してバイトをしている形跡がなく、大学の掲示板に張り出される単発のバイト募集を眺めているところを何度か目撃している。
いつもお金に窮していて、たかられることが多々あったが、かと思うと急に羽振りが良くなり、変なものを買い込んだりしては散財し、またキュウキュウになって家でぐったりしている、といった具合だ。

882 依頼 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/06(土) 23:32:19 ID:+FnIW24p0
傍から見ていると実に面白いのだが、たかられるのは迷惑だった。
師匠の家に着くと、僕は乱暴にノックをする。応答があったので、挨拶をして上がり込む。
僕はすぐにその部屋の中を観察したが、パンの袋は見当たらない。
「今、パンを拾いましたね」
明らかに狼狽した。
「拾ってない」
「見ましたよ。もう食べたんですか」
「拾ってないよ」
続けて詰問したが、頑としてその事実を認めなかった。僕はやがて根負けする。
「分かりました。もういいですよ、どうでも」
「落ちてるものを拾って食べるほど落ちぶれてないよ。失礼極まりないなお前は。しかも賞味期限切れのものを」
いいです。僕が悪かったです。
妙に引っ掛かるものがあったが、これ以上不毛な会話をするつもりもなかった。
かと言って有毛な会話も特になく、顔も見たことだし、帰ろうかと腰を浮かした。
すると師匠は「なにか食べるものを買ってこい」とのたまう。
「そうだ。昼飯食ってないだろ。手料理を食わしてやるから、材料を買ってきなさい」
言い方を変えたが、ようするにたかる気だ。溜息をついて外に出た。そして近くのスーパーに向かう。
指示されたものを買い込んで肌寒さの増した住宅街を歩いていると、すっかりの彼女のペースにはまっている自分に気づく。そしてそれを案外心地よく感じていることも。
「帰りました」
ドアを開けて、ピニール袋を足元に置く。

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