この怖い話は約 3 分で読めます。

883 依頼 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/06(土) 23:35:31 ID:+FnIW24p0
ちょうど師匠が家の電話を切るところだった。
「予定変更だ」
「え?」
「飯のタネが発生した」
言いながら、師匠は身支度を整え始める。
「そう言えば、お前はまだ連れて行ったことなかったな」
「なにかのバイトですか」
「バイトと言えばバイトだな。面白いぞ。一緒に来いよ」
料理の材料を冷蔵庫に放り込み、連れだって外に出た。
軽四に乗り込もうとして、「あ、ガソリンやばいんだった」と止まり、「自転車で行こう」と言うので師匠の自転車に二人乗りで目的地に向かう。
もちろんペダルをこぐのは僕だ。
どこに行くのかを訊いても、いいところ、とはぐらかされる。僕は師匠の指がさす方向へハンドルを向けるだけだ。
やがて自転車は市内の中心街から少し離れた一角へ入り込む。新旧の雑居ビルが立ち並ぶ中を進んでいると、「ここだ」と肩が叩かれる。
そこは三階建ての薄汚れたビルで、一階には喫茶店が入口を構えている。
そこに入るのかと思っていると、師匠はその入口の横にある階段を上り始めた。
思わず上の階を見上げると、二階に消費者金融の看板が掛っている。
二の足を踏んだ。
なんなんだ。もしかして、僕に借りさせる気じゃないだろうな、と思って疑心暗鬼にとらわれる。
しかしあの人だけはなにがあってもおかしくない。
どきどきしながら狭く薄暗い階段を後に続いて上りはじめる。
師匠の背中を見上げると、二階のドアを通り過ぎてさらに上の階へ伸びる階段へ足を掛けるところだった。
885 依頼 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/06(土) 23:39:03 ID:+FnIW24p0
三階? 何の店が入っていたか思い出そうとする。が、ビルの外観の中でもほとんど印象に残っていない。
階段を上りきると師匠がドアの前で待っていた。
親指を立ててそのドアに書かれている文字を指し示している。
『小川調査事務所』
そう読めた。控え目な字体と、大きさだった。
「こんちわー」
師匠はノックのあと、ノブを捻ってドアを開け放った。
瞬間、コーヒーの匂いが鼻腔に漂う。
殺風景な室内はデスクがいくつかと、色とりどりのファイルが押し込まれているスチール棚が奥に見えた。
それから入口やデスクのそばに鉢植えの観葉植物。
一番奥のデスクに組んだ足を乗せて書類をめくっていた男性が「おお」と声を上げる。
ここにいるのはその人だけのようだ。
「依頼人は?」師匠が近づいていく。
「まだだ。最近顔を見せなかったな」
男性は書類をデスクに放り投げ、椅子から立ち上がる。
「仕事もないのに、こんなところに来るかよ」
「冷たいな、そう言うなよ。……コーヒー飲むか」
コーヒーメーカーのそばに向かいながら、男性は僕の方を見た。
「キミは誰?」
というか、あなたが誰ですか。
ここはもしかして興信所というやつだろうか。よく分からない展開だ。
「助手だ。邪魔はしない」と師匠。
「へえ。コンビを変えたのか、夏雄から」男性はコーヒーを僕の前に差し出す。
「キミも、見えるわけか」

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