この怖い話は約 3 分で読めます。

260 ともだち  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/22(水) 23:00:27 ID:B6d5URPx0
部屋の外にいても、テレビがついているのがわかる。
音なのかなんなのかよくわからないが、とにかくわかる。周囲の人に聞いても
「あ、わかるわかる」と同意してくれるのでたぶん俺だけではないはずだ。
だからそのときも、ただわかったからわかったとしか言いようがないのだった。
幼稚園から逃げ出したその日の夜である。
そのころ完全に電気を消して寝るくせがついていたので、ふいに目を覚ましたとき
も暗闇の中だった。
自分の部屋の見慣れた天井が、うっすらと見える。ベッドの上、仰向けのまま半ば
夢心地でぼーっとしていると、テレビがついているのに気がついたのである。
部屋の中のテレビではない。薄いドアを隔てた、向こうの台所でどうやらテレビが
ついているようだ。
そちらに目を向けるが、ドアについている小さな小窓の輪郭がかすかにわかる程度
で、その小窓の向こうには光さえ見えない。
音でもない、光でもない。
けれどテレビがついているのがわかるのである。
もちろん台所にテレビなどない。
俺は半覚醒状態のまま、ただただ不思議な気持ちでベッドからのそりと起き上がり、
ふらふらと手探りでドアに向かった。
電気をつけるという発想はなかった。つけたら眩しいだろうなと寝ぼけた頭で考えた
のだと思う。
ゆっくりとドアのノブに手をかけ、向こう側へ押し開ける。
薄暗闇のなか、空中に女の顔が浮かんでいるのが見えた。
いや、顔だけではなかった。冗談のような小さな胴体と手足が粘土細工のように
くっついている。

261 ともだち  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/22(水) 23:01:54 ID:B6d5URPx0
それがふわふわと台所のある空間に漂っているのだった。
そのとき、怖いと思ったのかは覚えていない。ただ気がつくと俺は自分のベッド
に戻っており、仰向けのいつもの姿勢で朝の目覚めを迎えたのだった。
夜の出来事を反芻して、鳥肌が立つような気持ち悪さに襲われ、”連れて来てしまった”
んじゃないかと身震いした。
朝から師匠の部屋に転がり込んで、そのことを話すと「そんなはずない」と言って笑う
のだ。
幽霊じゃないんだから。あの女の子の見ている幻を、その子がいない場所でどうして
別の誰かが体験できるっていうんだ。夢でも見たんだろう。
師匠はそんな言葉を並べ立て、俺もだんだんとそんな気になりかけていた。
思いつきで、その女の顔が、ある芸能人に似ていたことを口にするまでは。
それを聞いたとたんに師匠の顔つきが変わり、その名前をもう一度俺に確認した。
どうやら師匠の見ていた顔と同じ印象を俺が持ったことに、納得がいかないらしい。
「そうか、わかった」
師匠はニヤリと笑うと、説明した。
あの幼稚園の女の子も、その芸能人の面影にわずかに似ているらしい。ということ
はつまり、自分自身のイマジナリーコンパニオンに似ているということだ。
女の子は想像上のともだちとして自己を投影した理想的大人を仕立て上げ、自分を
愛さない母親の代わりにいつもそばにいてくれる存在としたのだ。
母親のようにはならない、という反発心から母親とは違う大人に成長した自分を
イメージして。そして”ともだち”として相応しい等身にして……
そんな仮説をスラスラと口にする師匠に、俺は言った。

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