この怖い話は約 11 分で読めます。
俺の拙い文章に付き合ってくれてありがとうね。
マサさんの所で起こった出来事や、マサさんに聞いた話を書きながらだと、この話、
いつまで経っても終わりそうにないので、「傷」と女の話に話を絞って書きます。
それでも長くなるけれど。
他の話は別の機会に書きたいと思います。
もう少しだけお付き合い下さい。
マサさんの話によると、「生霊」を飛ばすと言う事は「精力」や「気」といった「生命力」を酷く消耗するらしい。
毎晩フルマラソンを走るくらいの負担が心身に掛かり、確実に本体の命を削り取って行くのだと言う。
普通の人ならば、一月で体調を崩し、三月もすると回復不能なダメージを負ってしまうのだそうだ。
しかも、これは毎晩生霊を「飛ばす」場合。
本体に生霊が戻る事で、生霊の霊力も本体の生命力もかなり元に戻るらしい。
それでも、削られる生命力は深刻らしいのだが。
だから、「結界」内に生霊を閉じ込められて、本体に戻れなくされた女がどんなに強い霊力の持ち主であっても、
そう長くは持たないはずだったらしい。
しかも、女の生霊はあの井戸に少しづつ「吸い取られて」いて、消耗のスピードは更に速まるはずだった。
はじめ「3ヶ月から半年」という期間を示したのは、Pと俺に「娑婆」から離れる覚悟を持たせるのと、
元いた生活に「心」を残させない為だったらしい。
傷が治った時点で、ほぼ全てが終わる予定だったのだ。
しかし、傷が治って来た時点で話が変わってきた。
女の生霊が消えないのだ。
女の生霊と一体となっている「守護神」は女の霊力を強めてはいても直接「生命力」を強める事はないそうだ。
女はとっくの昔に生命力を使い果たし、霊力を「井戸」に吸い尽くされて命を落として「井戸の中身」の一部に
なっているはずだったのだ。
悪霊が消えない限り俺たちを結界の外に出す事は出来ない。
しかし、どうやら先に俺達の方が危なくなってきたらしい。
背中に書かれた護符の力で守られてはいるが、マサさんが「引き込まれるな」と最初に注意したように、
俺たちもまた「井戸」に霊力や生命力を削り取られているのだ。
事実、70kg台だった俺の体重は60kg前後まで落ち込んでいた。
Pの痩せ方はもっと激しく、100kgを超えていた体重が70kgを割りそうな勢いだった。
このままだと生霊が消える前に俺達の方が先に命を落とす。
しかも、この地で死ねば俺達の魂は井戸の中身の悪霊と一体化してしまうというのだ。
マサさんのところに来てからは連日連夜、恐ろしい思いをしていた。
全てがあの井戸絡み。
命を落とすのは、まあ我慢が出来る(うそ、絶対にいや!)。
しかし、あの井戸の中身になるのは死んでも嫌だ!!!
俺達は悪霊との持久戦に入った。
俺達はマサさんの下で「気力・精力」と「霊力」を高める初歩的な修行をさせられる事になった。
これは、完全に予定外だったらしい。
この為、俺達は一生この手の「霊体験」からは逃れられない「体質」になるらしい。
身を守る方法は教えて貰ったけれどね(サービスだそうだ)。
修行の内容などについては機会を改めて書きたいと思う。
3ヶ月目に入ったとき、マサさんも流石に焦ってきたらしい。
いくらなんでもこんなに持つはずがないと。
男と女では体の造りが違うように、気の性質も違うそうだ。
セクースした時に男は気力や精力を放出し、女は本能的に男から精力を吸収しているそうだ。
これは他の動物も一緒で、最も極端な例は交尾の後に雌が雄を捕らえて食べてしまう蟷螂だそうだ。
子供を体内で育て、あるいは卵を産む「雌」の普遍的な本能。
セクースした翌日、男はぐったりしているのに女は元気が良くなるのはこの精力のやり取りによる。
(オナニーで一日4・5発抜いても平気なのに、女と1発やっただけで翌日グッタリしてしまう事があるのは
このせいか!と妙に納得した)
それ故に女は男よりも霊力も生命力も強く、生霊や幽霊の類も女の方が圧倒的に多いらしい。
ただ例外もある。
女は絶頂を迎える瞬間だけ気の方向が吸収から放出の方向に変わるそうだ。
この瞬間に女の気を吸収する技法が存在する。
マサさんによると「キンタマ~ωで女の気を吸い取る」らしい。
精気を吸い取られる瞬間に感じる快感は男女共に非常に強いものらしい。
(確かにオナーニよりセクースでイク時の方が気持ちイイよね)
その快楽は時に人を虜にする。
「色情狂」とは、元々の精力が強い人が、精力を放出し吸収される快感に囚われた状態であるらしい。
話を戻そう。
マサさんは女の生命力が尽きない理由は、女が「風俗嬢」として毎日、数多くの男と交わっているからだと
考えていた。
しかし、例え毎日10人以上の男と交わっても、これ程までには持つはずはないのだという。
これは、ある種の「行」や「技法」を用いて数多くの男から精力を「奪い取っている」と考えなければ説明が
つかない。
しかも、これ程のレベルで精力を吸い取られた男は一度で体を壊し、それでも快楽に囚われて命を落とすまで
女の下に通い続けるだろうと。
しかし、そうなると、これは恨みや呪いの「念」により「無意識」に飛ばされる生霊ではなく、意識的に相手を呪う
「呪詛」の範疇なのだという。
だが、俺達に憑いているのは「生霊」であって「呪詛」ではない。
俺たちがマサさんのところに来て半年が経とうとした時に、マサさんは俺達に言った。
これから女の所に行くと。
俺に女の所に一緒に付いて来いと。
俺はマサさんにそれは危険なのではないかと言った。
悪霊はかなり弱くなっているが、本体に戻れば相手の霊力・生命力から考えて元の木阿弥に
なってしまうのではないかと。
…俺、取り殺されちゃうよ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
マサさんは言った。
Pは、自分と俺の「祓い」の為に2人分、2000万円のカネをマサさんに支払っている。
俺を「事件」に巻き込んだのはPだが、金を出す事でPは俺に対する義理を果たし、この事件に関して
俺に対する「因縁」は消えている。
しかし、俺はマサさんに金を支払った訳ではなく、マサさんに対する借り、「因縁」が残っているという。
場合によっては命を落とす危険もあるが「因縁」を消す為にも協力してもらうとマサさんは言った。
Pはマサさんと俺が女に会いに行って帰るまで、道場(敷地内にあった倉庫のような建物)で、
柱に錠と鎖で繋がれた状態で篭る事になった(井戸に引き摺り込まれない為)。
俺は半年目にして初めて敷地の外に出ることになった。
門の外にマサさんの車がある。
俺は手渡されたアイマスクをして、目を閉じて結界を越えた。
粘り付くような、厚いビニールの膜を押し破るような強い抵抗を感じた。
マサさんに習った「技法」に従って、丹田から両手に「気」を集めて熱を持たせ、
その手で「膜」を破って俺は結界の外に出た。
結界の外に出た瞬間、俺は意識を失った。
気が付いた時、俺は車の中だった。
運転しているのは行きに付き添ってくれたキムさん。
頭がガンガンする。
酷い船酔いをしたときのように目が回って気持ちが悪い。
「調息」を試みたが全く効果がない。
今にも吐きそうだ。
俺はマサさんに渡されたビニール袋に大量に吐いた。
吐いた後、暫くすると鼻血が出てきた。
「もう少しだから我慢しろ」とマサさんが言う。
キムさんがマサさんに「この兄さん、持たないんじゃないか」と言う。
マサさんが「一通りのことは出来るから大丈夫だ。手伝ってくれ」と答えた。
やがて車は狭い空き地に着いた。
車が一台止まっている。
行きに乗ってきたキムさんの車だ。
若い男が車外でタバコを吸っている。
キムさんに指示されていたのだろう、2L入りのミネラルウォーターのペットボトルが
2本入ったビニール袋をマサさんに渡した。
マサさんはボトルの中身を捨てると神社?の階段を昇って行った。
キムさんは、俺を神社の階段の前の石畳の上に寝かせ、頭頂部と胸に手を当てて、
半年間毎朝行ってきた瞑想と呼吸法が合わさったものを行うように言った。
キムさんの手を通じて頭から冷たい気、胸からは熱い気が入ってきた。
やった事がなければ判らないが、両手に冷・熱両方の気を通す事は非常に難しい。
俺やPなどは「熱」は作れても「冷」の方は殆ど出来ない。
キムさんも俺たちと同様の修行をしたことがあり、恐らくは今でも継続していて高いレベルにあるのだろう。
暫くするとマサさんが水の詰まったペットボトルを持って階段を下りてきた。
どうにか落ち着いてきた俺は一本目のペットボトルの水を鼻から飲み込み、
限界まで飲み込んだら吐き出すということを3回繰り返した。
2本目のボトルの水は、マサさんとキムさんが、俺の全身に吹き付けた。
それが終わると俺は階段を昇って神社の境内に入り、「激しい」呼吸・瞑想法を行った。
3時間ほど続けると俺は完全に回復した。
若い男が用意してあったGパンとTシャツ、パチ物のMA-1のジャンパーを着て車を乗り換えて俺達は出発した。
キムさんの家で丸三日休み、俺とマサさんは女のマンションの部屋に向かった。
女はここ暫く出勤していないそうだ。
女の在宅はキムさんの方で確認済みだった。
マサさんがインターホンを鳴らす。
訪問は伝えてあったのだろう、女は俺たちを部屋に招き入れた。
女はやつれていたが、かなりの美人だった。
ちょっと地味だが清楚で上品な雰囲気。
とても風俗で働くタイプには見えない。
やつれて憔悴してはいたが、目には強い力が在った。
非常に綺麗で澄んだ目をしていて、見ているだけで引き込まれそうな魅力がある。
凄まじい霊力を持っていると言われれば納得せざるを得ないものがあった。
しかし、この女からは人を恨むとか呪うといった「邪悪」なものは微塵も感じられなかった。
ドアを開けたとき女はギョッとしたような顔をしていた。
マサさんと話しをしている時も俺のことをしきりと気にしている様子だった。
思い切って俺は女に理由を尋ねてみた。
女は震える声で語った。
女の話では、ホテルが建って暫く経った頃から、昔住んでいた家の夢を良く見るようになったそうだ。
家の中には幼い自分一人しかいなくて、家族を探して広い家の中を歩き回るのだと言う。
そして、いつの間にか目が覚めて、涙を流しているのだと言う。
ある晩、酷い悪夢を見たそうだ。
風呂場と自分の部屋で繰り返し、何度もレイプされたのだという。
夢と現実の区別が付かないほどリアルな夢だったそうだ。
気が付いた時、自分の手に刀が握られていたそうだ。
彼女は恐怖と怒りや憎しみで我を忘れて、彼女を犯した男を切り殺したと言う。
その男が俺だったと言うのだ。
それ以来、彼女は毎晩悪夢に襲われるようになった。
客に付いた男達が彼女を酷いやり方で襲ってくるのだという。
彼女が恐怖と絶望の絶頂に達した時に手に刀が握られていて、彼女は恐怖と怒りに駆られて、
我を忘れて刀を振るったのだと言う。
しかし、その悪夢は一月ほどすると見なくなったと言う。
その代わりに急に体調が悪くなり、仕事中にボーッとして、接客中の記憶をなくしてしまうことが多くなった。
生理も止まってしまったらしい。
また、彼女は暫くすると新しい悪夢を見るようになったそうだ。
目の前に小さな男の子が2人いて、自分はいつもの刀を持っている。
そして、鬼の形相の亡くなった父親が彼女を棒や鞭で叩きながら目の前の子供を斬り殺せと責める。
父親の責めに負けて刀を振るおうとすると母親の声がしてきて止められるのだという。
マサさんは女に「あなたのお父様は自殺なさったのではないですか?お母様もそのときに一緒に亡くなられたのではないですか?」と尋ねた。
マサさんが言うとおり、彼女の両親は彼女の父親の無理心中により亡くなっていた。
彼女の父親は朝鮮人に対して激しい差別意識を持って嫌っていたらしい。
しかし、彼女の父親に金を貸したのは在日朝鮮人の老人だったそうだ。
彼女の祖父に戦前世話になった人物で、破格の条件で金を貸してくれていたそうだ。
バブルの絶頂期、手持ちの株などを処分すれば、それまでの借金は十分に返せたと言う。
彼女の母親も強く返済を勧めていたそうだ。
しかし、彼女の父親は「朝鮮人に金を返す必要などない。家族のいない爺さんがくたばればチャラだ」と
借金を踏み倒す気でいたらしい。
彼女の父親の話は聞いていて胸糞の悪くなる話ばかりだった。
彼女も母親は慕っていたが父親の事を嫌っていたようだ。
バブルが弾け彼女の家の資産は大きなマイナスとなった。
マイナスを取り返そうとした父親は悪あがきをして更に傷口を広げた。
金策が尽きた父親は老人に更なる借金を申し込んだが、断られた。
その過程で彼女も借金の連帯保証人となった。
彼女の父親は娘を連帯保証人にしても当たり前で、借金を断った老人と朝鮮人を呪う言葉を吐き続けたそうだ。
間もなく老人は亡くなり、相続した養子も不況の煽りで破産した。
老人の持っていた債権は悪質な回収屋の手に渡った。
土地や屋敷を失い、それでも残った多額の借金に追われ自殺した彼女の父親の遺書には恨み言しか
書かれていなかったそうだ。