子どものころの怖い話
鬼伝説の山

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俺は理解できずに、もう一度訊きかえしたがまた、
「わたし」としかいわなかった。
彼女の名前は、わたしというらしかった。
もともとこの田舎は俺の地元だ。誰が住んでいるのか、
ある程度把握している。
だがわたしという名前の女の子は聞いたことがなかったし見たこともなかった。
知らない間に引っ越してきた子なんだろうか。
それにしても一人称が名前だとは到底信じられなかった。
俺はニックネームなんだと勝手に判断していた。
「いい目をしているわね」
彼女(以後彼女で統一)は唐突にいった。
そして一方的に、
「誰かを呪いたいの?」と続ける。
俺はふと、彼女の枝のような腕に目がいった。
そこには繊細な肌に似つかない赤黒い痣が刻まれていた。
俺は己の背中にある赤い痣を頭に浮かべた。
このとき、この子も俺と同じ境遇なのだろうかと予想した。
同級生にいじめられて、誰にも相談できず、たった一人で立ち向かっている。
俺は自然に口を開いていた。

 

「TとNとUって奴がいるんだけど、そいつらを呪ってやるつもりなんだ」
初対面の人間に対して発する言葉ではなかったが、俺はその前の経緯なども、
何故か滔々と話していた。
聞き終えた彼女はいった。
「あなたは頭が悪そうね」
「え」
俺は拍子抜けしてしまった。
てっきり同情や同調してくれると思っていたからだ。
でも確かに俺は成績もよくないし、話のまとまりもなかったように思うから否定もできなかった。
「協力してあげようか」
だから彼女がそう提案してきたとき、俺はまたひどく驚いた。
俺は半ばこの子と仲よくなりたいと思っていた。
顔もタイプだし、口が悪いところもあるけれど、共通の話題を持ちたくて、俺は頷いていた。
彼女は俺を見つめ続けていた。
「約束したわね。じゃあ、その呪具はいらないわ。そもそもあなたがやろうとしている呪いはデタラメよ、効果なんてない。だから、この箱をわたすわ」
彼女は俺に、手のひらサイズの箱をわたした。
表面に紋様のような線が刻まれている重い箱だった。

 

「呪いたい相手の一部をこの箱に入れて。決して自分の物は入れてはだめよ」
俺は呪いの際に必要だった、Tの髪の毛を包んであるハンカチを取り出した。
Nの制服についていた抜け毛を何本か拝借したのだ。(俺はそのとき勘違いされてTに殴られてしまったが)
彼女の指示通りに箱の蓋を開けて、その一本を入れる。
「これで呪いが実行される、んですか?」
「そう」
俺は箱を凝視した。
また疑問が湧いてきて質問しようと俺が目線をあげると、わたしの姿は忽然と消えていた。
帰ったのは二十時を回っていて、祖母にこっぴどく叱られた。
帰りが遅いことの他に、B山から出てくるところを見られていたため、説教は長時間にわたった。
「それで、会ったのか?」
「な、何に?」
「鬼じゃ」
俺は首を振った。
実際は少女に出会ったが、余計なことをいうとまた怒られると思って黙っていた。
「もし鬼と出会っても話してはならんぞ」
祖母は俺を覗き込むようにしていった。

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