洒落怖
お届け物

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日曜日の昼下がり、ぼんやりとテレビを眺めていると、チャイムが鳴った
玄関へ行きドアを開けるとそこには、黒一色のワンピースを着て頭に赤いカチューシャをはめた
四十代後半ぐらいの女が立っていた
「お届けものです…」女は籠に入った何かを唐突に俺に突きつけてきた
「えっ、なんすかこれ?」
という俺の至極当然の問い掛けを女は完全に無視して「これにサインか印鑑を」と言った
「いやサインって、これ新聞紙じゃないですか、しかも雑に破いた…」と俺が困惑を露わにすると
女は「ちっ」と舌打ちし、「早くしろよ…」と小声で伏目がちに呟いた
うわ…なんかあぶない女だな、下手に逆らわない方が身のためだなと思い
新聞紙の写真の政治家の額に村上龍という思い付きの偽名を書き綴った
女は「まいどあり」と目も合わさずに新聞紙を俺から引ったくると
竹ボウキを引きずりながら玄関から立ち去った
一体何なんだよあの女…と暫く呆気にとられていたが籠の中身が気になったので
恐る恐る被せてあった布を取るとそこには、ビチョビチョに濡れた食いかけのパイが入っていた
『あたしもこれ嫌いなのよね』という走り書きのメモも添えてあった

表から様々なクラクションや邪魔なんだよ!といった怒声が聞こえる
玄関から覗き見るとホウキに跨って動かない女のせいで酷い渋滞が発生している
暫くすると遠くからサイレンも聞こえてきた。どうやら誰かが通報したらしい。
俺はグチャグチャのパイを女にぶん投げて扉を閉めた
そして、飛べない俺らのために、一晩中泣いたのさ

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