Categories: 洒落怖

スタジオ

この怖い話は約 3 分で読めます。

503 名前:スタジオ 1 投稿日:2001/04/23(月) 00:54
5~6年前の初夏の頃の事です。駆け出しのアレンジャーがいました。仮に名前を
Aとします。Aはその日、都内の某スタジオでレコーディングをしていました。
そのスタジオは1階がロビー、受付、守衛室、駐車場。2階はA~Cスタジオという風に
3つのブースに分かれていてその日は2階のBスタでの作業となっていました。

アーティストとその関係者は既に帰った後でBスタジオにはAとエンジニア、そして
アシスタントの3名のみです。時間は深夜3:00を過ぎようとしていました。
コーヒーの飲み過ぎか腹の具合が悪くなったAは作業を中断してトイレに行きたくなりました。

「ごめん、ちょっと…」

二人を部屋に残してAは廊下に出ました。スタジオの中は冷房と除湿が効いていますが、
季節がら廊下は湿気を含んだぬめっとした空気につつまれていました。
廊下を曲がり、暗くなったAスタとCスタを過ぎて突き当たりまで来て、普段なら常に
電気のついているはずのトイレの蛍光灯が消えているのに気づきました。
明かりといえば階下から洩れてくるロビーの明かりと非常灯のみです。

「誰か消しちゃったんだな、ここまで消えてると流石に恐いな…」

そう思いつつAは蛍光灯のスイッチを入れました。ブ…ゥン、微かな音を立てて蛍光灯
がつきます。そしてトイレに足を踏み入れた途端Aは自らの異常に気づきました。
全身の毛が逆立っているのです、とともに悪寒が身体を包み込みます。
空気も肩にのしかかるように重く淀んでいる気がしました。しかしAは自分の肉体が
発している警告を信じる事が出来ませんでした。もともと霊感も無く休憩時間に前述の
二人とスタジオにまつわる怪談話をしたせいもあり、怖じ気付いてるだけだと
思ってしまったのです。何より下腹部の事情も事情です。思い直して
奥の一つしかない大便所へ足を運びました。

504 名前:スタジオ 2 投稿日:2001/04/23(月) 00:54
ガチャッ。「あれっ……」

鍵がかかっています。ちょっと間をおいてコン、コン、とノックが2回
返って来ました。全身の血の気が引いていきます。

「真っ暗なトイレでこいつ何やってたんだ?」

なによりAは知っていました。他のスタジオで仕事をしてた人達は12:00過ぎには
みんな帰ってしまっていた事を。1階に残っていた守衛達は1階のトイレを使う事を。

「だ…誰!?」

思わず声が出てしまい入り口の洗面台まで後ずさった瞬間、そのドアがゆっくりと
開きました…。ドアノブを支える手が見えました。日に焼けて無い真っ白な手です。
そして次に顔が半分ぬぅっと覗きました。男の顔、目はじっとこちらを見据えていました。
なんの表情も読み取れない人形のようなその顔は蛍光灯に照らされて、さらに青白く
血管までが透けて見えそうな程です。しかしAが感じた違和感はそこではありませんでした。

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