Categories: 洒落怖

聖域

この怖い話は約 3 分で読めます。

847 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:15
これが田代峠の奥に存在すると言われている不明の正体なのかと、さす
がにぎょっとして足を停めようとしましたが、自分の意志とは正反対に、
足の方で動きをとめてくれません。私より数歩だけ前を進んでいた息子
も同じ思いだったそうです。ガスはますます濃くなって、私達の方に向
かって輪を広げてきて、私達は見えない引力にずるずると引き込まれて
いくのでした。
 前を歩いていた息子が、真青な顔を私に向けて叫びました。「お母さん。
これ」山歩き用に使っていて、私が息子に持たせておいた大型の携帯用
羅針盤を指差していました。あとは恐怖で言葉が出ないらしいのです。必
ず北を示していなければならない指針が、無暗にぐるぐる回るだけで、不
安定な針先はどこを差しているのか見当がつきません。そんな信じられ
ないことがと、羅針盤を水平に持ち直しても、同様に針は固定せずに大
きく回ったり鋭く振れ動いて、決まった所を差さないのです。不安定な振
れがおさまると、前方の方角に固定してしてしまいました。初夏の太陽の
方向と言えば、東か南です。磁石の北に向くべき針が、東南に。あり得
べからざる事態に仰天してしまいました。そして、指針に向かって私達
の身体までが、吸い込まれるように動かされていることに気付きました。

848 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:16
あっと言う間に延びてきた緑の気体が、私達を包んだようでした。くんく
ん鼻を鳴らして嗅いだ私は、ガスか煙霧に似たこと気体は酸素と窒素か
らなる空気でなくて、説明のしようもない別の成分の気体ではなかろうか
と直感しました。緑のガスを大きく吸い込みますと、すうーっと肺の中ま
でしみる快いものを覚えました。
 と、同時に、急に身体が軽くなりました。普通に歩いたつもりだったの
ですが、足を踏み出した瞬間に、ふあふあした自分の身体は二米も高く
とび上がった感じで、そのまま十米ぐらい前方に音もなく降りる感じでし
た。映画のスローモーションフィルムと同じような動作だと思い、突然に
地球の引力がなくなってしまったのでは、いやあるにしても何分の一か
に減ってしまっているのです。

849 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:16
私だけではありません。突然の変化で、前を進む息子は恐怖におびえ
た顔を、間の抜けたスローモーション動作を示しながら振り返って見せ
ているのです。第二歩を空中に躍らせた時、高い空を見上げました。空
は青色に決まっていますし、数秒前には間違いなく青だったはずなのに、
紫に変わっていました。ただの紫ではありません。抜けるように濃くすき
通って眺められる紫の色でした。そんな馬鹿な話ってあるものですか、
そう感じました。次には、ふんわり降りる際に、地上に目をやったのです
が、たった今まで苦闘したばら科植物と蔦が消えていて、砂地になって
いるのです。しかも、この地方で見る土砂でなくて、何時か九州の海岸
に遊んだ時に手につかんだ砂に似ています。まばゆく輝く水晶とも思わ
れる石英がまじっているなあと思いました。山の中に海浜の波打ち際に
見られる砂があるとは、私は混乱してしまいました。

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bronco

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