聖域

840 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:04
よそからのコピペ。私は怖いというよりぞっとした。誰も入ることの出来ない
聖(?)域が今だ日本に残ってるかも?と考えるだけでワクワクする。
多分筆者と息子はデムパだけど。

禁断の田代峠奥

高橋コウ(山梨県)の手記
◎タブーの山への挑戦
 私の住んでいる山形県最上町は、宮城秋田両県の県境に近い場所で、奥羽
山脈のほぼ真ん中に位置している海抜二、三百米の山里です。見渡す限りの
険しい山々と、深い渓谷に囲まれていて、すぐ近くには広い傾斜の続く高原が
眺められます。名だたる豪雪地としても有名ですが、陽春の候ともなりますと
、どこを歩いてもぜんまい、わらび、山うどなどの山菜が豊富に採取されます。
私は山菜取りが好きで、人様から名人級などとおだてられるくらいに、質がよ
くて太いぜんまいやわらびを探すのが得意なのです。
 長い間の経験と、好きな道だからこその工夫などが原因だと思います。ところ
が、附近の連山をくまなく歩き回っていて山のベテランと自他共に許す私も、あ
る特定の区域だけは足を入れたことがないのです。

841 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:07
それは、山形宮城両県境にまたがる田代峠から、更に入った山奥の附近
です。地形がきわめて複雑なこと以外には、何の変哲もなくて、深い谷が
多く湿地が続いている山地ですが、地元の人々は古来から、この地域に
行った者は、再び戻ってこないとか、運よく帰れても発狂してしまったり、
突発的事故死が起きると伝えられています。地獄の山との別名もあって、
山登りはもちろん、山菜取りの人も恐れて近寄らないくらいタブーの山で
もあります。
太平洋戦争の末期に日本内地を移動中の旧海軍双発飛行機一機が、
地元住民の誰もが視認している中で、田代峠奥地の上空で急に飛行中
の機体が空中爆発して墜落した事件がありました。捜索に出向いた現
職警察官と数名の消防団員達は、地元古老の制止を振り切って入山し
たまま、杳として消息を絶ち、更に救援に赴いた少数の海軍兵士さえ、
行方不明になってしまいました。
 数年前の冬です。今度は陸上自衛隊のヘリコプター機が訓練飛行中
に、田代峠奥地と推定される場所で、危険緊急電報を打電したきりで、
不明になったことがありました。空中からの捜索は行われましたが、近
代装備を誇る大勢の自衛隊員が来ましたのに、なぜか現場と覚しい所
までは直行せずに、何も回収しないで帰ってしまったのです。私ならず
とも、そこに何かあるはずだと思います。しかし、昭和五十年代のご時
世に、迷信や非科学的な現象が存在するはずがありません。

842 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:09
ようし、誰もが嫌がって行かないなら、山男ではないが山女の名にかけて
私が行ってやろう。そして、どんな物があるのか、いかなることが起きるの
かを、私自身のこの目で確かめてやりたいと決心しました。五十歳をすぎ
た私には、異常な決意だったのですが、独身で気楽な会社勤めの上の息
子に相談しますと、
 「お母さん、それだけは止めたほうがよいと思うよ。何百年も人間が入っ
ていない場所だから、ぜんまいのすごいのがあるだろう。だが、禁制を破
って入り、あとで気ちがいになったり、早死してはつまらないからなあ」
 と、てんで乗ってこないのです。そう言われるほど闘志が湧き上がる私
は、
 「おやっ、今どきの若い者にしては、珍しい縁起かつぎだわねえ。そんな
ら、私一人で這ってでも行って来ますよ」
 そう宣言しますと、仕方なさそうに、
 「しようがないなあ。それでは、田代峠の近くまでは車で案内するよ。だ
けど、近づいて眺めるだけ。それ以上は山に入らない約束をすれば一緒
に行ってもよいよ」
 しぶしぶの返事でした。

843 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:10
◎不思議な洞窟の老婆
 息子は休暇をもらい、長年の教員生活から解放されて気楽な恩給暮ら
しの私との二人は、昨年五月十日の晴れた日に、宿願の田代峠に向か
いました。山と高原のだだっ広い私の町は家から峠まで二十粁(キロメー
トル)以上もあるのです。未舗装のでこぼこ道を車にゆられて行きますと
峠より相当離れている手前に、屋敷台と称する数軒の小落がありました。
車はそれ以上進めません。
 駐車させてほしいと、一軒の家を訪れました。わらぶきの屋根と、手造
りの荒い柱が目立っていて、電灯もありません。黒ずんだランプが印象
的で、現代では想像もつかないくらいに、古風なたたずまいでした。この
辺では、他家の人間と会うことが珍しいらしくて、底抜けの善意を示して
くれましたが、田代峠から奥の山の地理を尋ねますと、上機嫌だったこ
の家の主は、急に険しい顔つきになって、
 「お前さん方よ。わしらのような山歩き商売の者でさえ、峠から向かい
側には足を入れないのだ。止めた方がよいと思う。一歩でも踏み込むと、
得体の知れないものがあって、必ず災難が振りかかってくる。わしが知
っているだけで、何人かが命を落とした。あそこだけは止めなさい」
 こう言って、山菜取りには予備の食糧がいるだろうと、小動物のくん製
肉をたくさん持たせてくれました。

844 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:12
峠まで歩きましたが、八粁足らずの道程だと思っていましたのに、背丈
ほどもある熊笹をかき分けるのに手間どって、予想外に時間を費やして
しまい、日の長い五月の一日も暮れようとしていました。山のベテランと
もなると、用意のテントも持参していますし、野宿は平ちゃらです。さすが
に人跡未踏のこのあたりでは、見たこともない超良質のぜんまいがそこ
ら中にあって、うなっていました。
 今晩は泊まり、明日は一日中かけて、山菜を集めれば、運び切れない
ほどのえらい数量のぜんまいを確保できそうだ。二人で採れば六十キロ
は超すに違いない。乾燥しても六キロは出ると計算しました。キロ当たり
一万ですから、六万円以上になりそうだと、われながらみみっちい計算を
していました。
 突然、私達の目の前に老婆が現れました。初夏の日暮れの逆光線を
浴びて、音もなく姿を見せたとき、私と息子はぎょっとしたのです。乱れた
髪としわだらけの顔はよいとしても、ぼろ切れなのか南京袋をほごしたも
のなのか、衣裳めいたのを身にまとって、帯の代わりに蔦を使っていま
す。どうしてもこの世の人とは思えない形相でした。地底から涌き出るよ
うな声をしぼって、何やら尋ねているのです。私は山の衆と言われている
独特の〝またぎ〟の言葉も知ってますが、それとも違うようでした。判ず
ると、お前さん方はどこに行くつもりなのか。峠から向こうには行っては
いけない。今晩はおそいから自分の住処に泊まっていけ。そんな意味で
した。

845 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:13
案内された住処というのは、山の中腹に掘った洞窟でした。家財道具ら
しいものは何もないのです。洞窟内の地べたに炉を作っていて、手製ら
しい土鍋の中には、とうもろこしと、何ともわからない肉片の塩じるでした。
鍋ごと食えとのことでしたが、盛り付ける茶碗や皿がなかったのです。
水のしずくがしたたり落ち、がらんとした洞窟は、松やにの灯に黒ずんだ
岩肌が不気味に光っていて、休むどころではありません。老婆の姿をし
げしげと眺める毎に、原始的な服装と動作のテンポが常人と違っていて
、なぜこんな山奥に独りで生きているのか、分からなくなってくるのでした
。言っていることは、半分ほど理解されましたが、
 「お前さん方は、翌朝になったら、峠から戻ってくれ。一歩でも入ったら
、どんな災難が降ってくるかも知れない。うちの旦那は、あそこに出掛け
たきり戻って来ないし、最近では、地図作りのお役人さんと営林署の人
が、止めるのも聞かずに行って、次の日には死体となって烏や鷹の餌に
なってしまった。悪いことは決して言わないから、必ず実行してくれや」
 との意味でした。予想通り、普通の人間が現場に近寄ると、なにかの
理由によって、不幸な事態になるらしいことは、彼女の言によっても了承
できるのでした。でも、その正体を突きとめたい気持ちも十分にありまし
た。

846 名前:長文スマソ 投稿日:02/02/18 07:14
◎空中に体が舞上って
 次の日の朝早く、帰る振りをして、お婆さんに謝して洞窟を出た二人は、
少しばかり戻ってから、問題の場所を確かめようと話し合いました。人工
衛星のとび交うご時世に、婆さんの言うような馬鹿なことがあってたまる
かいとの息子の提案に、好奇心きわめて旺盛な私が一も二もなく賛成し
たからです。
 ひどい道中になりました。ばら科の植物と強じんなつるの多い茎がから
み付き、足を取られ大変な難行軍になりました。一歩一歩が汗だくにな
り、必死の歩行なのです。二粁ほども進んだと思います。参ってしまうな
あと奥山に進んだのを後悔し始めましたが、今更引き返すことはできま
せん。
 「お母さん、前の方が変な色に変わってきたよ」
 息子は、ばらとの闘いの苦しい道程が終わりそうになった時、私に問い
かけました。私自身も先刻から、数百米ほども前方に淡い青のまじって
いる緑色のガスか霧に似たものが突然に発生して次第に大きくなり、こ
ちらの方角に進んでくる感じを気にしていたのです。長い期間山歩きを
過ごしてきた私には、このような色彩のガスを経験したこともありません
し、発生する場所と湧き上がり広がる工合も、常識では判断できない現
象でした。この時刻と現在の天候状態では、ガス、霧ともに湧くはずがな
いのです。

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