この怖い話は約 3 分で読めます。
お邪魔します。
小学2年になって引っ越すまで住んでいた家について、いろいろと不思議な体験がある。
片田舎というほどでもなくそこそこ拓けた新興住宅地の片隅にある賃貸の平家だった。
一年中じめじめとした、いつも陰影をまとったような情景が思い浮かぶ。
背の高い土蔵のような隣家に挟まれ、庭にひしめくように植えてあるビワの木のせいで
日中も陽が当たらない。
「もともとあそこは田んぼだった」という母の言葉を後年聞いて、なるほどと思ったものだ。
床板や柱はどれも黒ずみ朽ちやすく、そしてどこからともなくカビのような臭いが漂う、そんな家だった。
記憶が定かではないが小学生に上がる前の年、夏の夕方ことだった。
その日は昼前から新興住宅の区画に住んでいる友達Yちゃんの家で遊び、夕飯前にという親の言いつけを
忠実に守って帰宅したところで母が呆れたように言う。
「あんた、また遊びに行ってたの?」
「ううん、ずっとYんとこにいってた」
また、といわれて不思議だった。母は弟と一緒に午後から出かけていたという。
帰宅して母の友人から電話があった際に、電話に出たのが私だというのだ。
私が一度家に帰ってきて電話を取ったと思ったらしい。
「おかしいねぇ…だれが電話でたのかね」奇妙な出来事ではあったが、その話題はそれでおしまいだった。
数日後、また同じような出来事があった。
今度は家族全員で外出していた。翌日、前回と同じ母の友人がまたこんなことをいった。
「N君(私)が留守番してて、みんないませんって」
72 本当にあった怖い名無し sage 2010/08/11(水) 18:50:48 ID:oVT/5iBN0
「そのおばちゃん、適当なこといってるんじゃないか?」父は母の友人が嘘をついているではないかと
冗談まじりに言ったが、その友人と長い付き合いである母は釈然としなかった。
「でも…いろいろNと話したっていうのよ」電話に出たという私は、近所の友達のことや飼い猫のことを
ハキハキと答えたらしい。それらは母が友人に話したこともない具体的なもので、とても作り話とは思えなかったという。
私はそんな両親の話に聞き耳をたてながら、玄関の黒電話を横目で見ていた。もうひとりの自分らしき子供が薄暗いそこで、
電話に向かっているたたずんでいる空想が、ひどく気分を悪くさせた。
「そう、あとこんなことも言ってたの、電話の向こうがすごいガヤガヤしてて、テレビの音を下げてほしいって何度もNに言ったって…」
「テレビって…聞こえるか?」父は首を傾げていた。
狭い平屋とはいえ、テレビのある六畳の居間と電話は対角線の端と端というほど離れていた。壁まで挟んでいて、
通話に差し障るほど聞こえるというのは考えにくい。
そして3週間ほどの間にこの出来事はもう一度あった。
その時は父の会社の人間からであり、母の友人の嘘という疑惑は自動的に消えた。この家に来てからというもの、
こうした奇妙な出来事はこれが初めてではなく、両親もこの話題を避けるようになった。まだ小さい弟の世話に
忙殺されてそれどころではなかったように思う。
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