洒落怖
ピントが合わない

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「ピントが合わない」

11月7日土曜日、紅葉がきれいと評判らしい、◯◯公園へ出かけた。
メンバーはいつものとおり、SさんとK。
Sさんと会社の最寄り駅で待ち合わせ、そこから電車でニ駅。現地でKと合流する。
人は思ったよりも少なく、まずはひと通り回っていい場所を探し、ビニールシートを敷いて持ち寄った弁当を広げた。
早速大口を開けておにぎりにかぶりつくSさんに、シャッターチャンスと見た俺が自前のコンパクトデジタルカメラを向ける。
「ちょ、ちょっとやめてよ、今のはなし、なしよ」
カメラを奪おうとするSさんをガードしながら、液晶に画像を表示させる。
「ありゃ、手ぶれだ」
画面の左半分に、Sさんのご尊顔がブレブレになって写っていた。
「いや、違う。後ろの枝にピントが合ってる。手ぶれじゃい、ピンボケだよ」
横から覗き込んでいたKが言う。
さすがはカメラマニアというところか。
Sさんにはそれ以上の撮影を拒否された。
仕方がないからKなんかを撮りながら楽しく昼食を過ごす。

56 55 sage 2010/01/31(日) 13:31:05 ID:fXy0MD5bi

午後も見て回ろうとなった時、さっきのミスショットがどうにも残念に思えて、カメラを構えて
「Sさん、いい?」
と言ってみた。
「いいけど?」となんとなくポーズを取ったSさんに、カメラを向ける。
Sさんがファインダーの中央に来るように構えて、今度は慎重にシャッターを半押しする。
しかしピントが合わない。いつもならすぐに現れる緑のカーソルが表示されず、レンズの駆動音がいつまでも止まない。ピントを合わせようと行ったり来たりしているようだ。
また横からKが顔を出して来た。
「何やってるの?」
「いやわかんない」
Sさんもきょとんとした顔でこっちを見ている。
「やれやれ、これだから安物はいけませんなぁ」
そう言いながらKは、首からぶら下げているデジタル一眼レフカメラを構える。
ははーん、こいつSさんにいいとこ見せたいんだな。俺にはどうにも見当外れに思えたが、黙って一歩下がってやった。

57 55 sage 2010/01/31(日) 13:32:53 ID:fXy0MD5bi

KはそのままSさんにカメラを向けたものの、なかなかカメラから顔を外そうとしない。そのうちレンズを手で回し始め、一歩進んだり二歩下がったり、あさっての方向にカメラを向ける。
挙句すぐ横にいる俺の方へカメラを向けたところで、さすがに声をかける。
「おい、いい加減にしろよ」
Kが真っ青な顔をして俺に顔を近づけてくる。
「おかしい、Sさんだけピントが合わない」
「なんだよ、お前のカメラも大した事ないな」
「そうじゃない、周りの樹やお前の顔にはピントが合う。Sさんだけ、オートフォーカスでもマニュアルでも、どうやってもピントが合わない。レンズとミラーとプリズムを通した像、純粋に光学的な像のピントが合わないんだ」
「なんなんだよ、それ。そんな事あり得るのかよ」
「分からない。こんな話聞いた事もない。ああ、くそこれ見ろよ」
Kがカメラの液晶を指し示す。
そこには美しく紅葉した樹木を背景に、Sさんの全身像が写っていた。ただしSさんだけが、左右に素早く動いたようにブレていた。よく見るとブレの大きいところと小さいところが交互に細かく繰り返されて、横縞のようになっている。
「まさかさっきのも・・・」
俺は自分のカメラに、さっきのミスショットを表示させる。
単純にピンボケだと思ったSさんの顔は、予想どおり禍々しい横縞に覆われていた。
「そうか、Sさんにピントを合わせられないから、自動で後ろの樹に合わせたのか」
Kが一人うなずく。
「どうしたのよ?」
いつの間にか側にいたSさんに声をかけられて、慌てて俺たちはカメラを隠した。
「なによ見せてよ」
Sさんがカメラに手を伸ばすが、Kは懸命にそれを拒む。
「何かあるのね。見せて。見せて欲しいの」
急に迫力の増したSさんに、Kもしぶしぶとカメラの液晶を見せた。
「・・・!!」
さすがに絶句したSさん。俯くと絞り出すような声で言った。
「消して、消してお願い!」
結局このまま解散となった。
帰り道、俺一人で彼女を送る間、ひと言も声をかける事ができなかった。

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