Categories: 洒落怖

裁き

この怖い話は約 3 分で読めます。

自分の思想信条が、自分が観た夢によって覆る、そんなことが有り得るだろうか

私はかねてからの死刑賛成論者だ。
人を殺した罪は自分の命を差し出すことでしか償えないと考えていた。
子供の頃、自分の親を殺そうと日々妄想していた時も、それは同じだった。
親を殺した後、私はどうなるか、私はどうするか、私は何度もシミュレートしていた。

きっと私は手を差し伸べてくれる人権派の弁護士たちの誘惑を断るだろう。
そして検察側の求刑を全面的に受け入れ、甘んじて国家に殺される覚悟だった。
それは遺された弟や妹が果たせない親の敵討ちであり、私に更生する意志がない以上、
危険な殺人犯を再び社会に解き放たないための最も合理的な解決方法であるとさえ考えていたからだ。

── ある日、私は夢をみた

788 ◆G10zQMdncg sage New! 2012/02/22(水) 03:47:37.62 ID:U8CDXpqm0
いつものように家でテレビを観ていると、あるニュースに目が留まった。
最近、顕著になりつつある少年犯罪の凶悪化が報じられている。

どうやら誰かが中高生たちに銃を横流ししているらしい。その中高生たちの犯行手口はこうだ。
街中を何食わぬ顔で自転車で近づき、通行人を無差別に射殺してダッシュで逃げ切るというもの。
そうして無実の一般市民が少年少女たちのストレス発散の餌食となっているのだ。
この事件の根深いところは犯行の動機が愉快犯というだけに、始末に負えないその悪質さにある。
銃はそれなりに出回っているようで、すでに何人か被害者が出てしまっている状況だ。

私は報道を目にして、自分の中の正義感が騒めき立った。無差別殺人をやった犯人が、
いまだ逮捕されずに平凡な日常生活を送り続けていることを想像し、私は憤慨した。

「なぜ裁かれない…死刑ものだぞ。自分が現場を目撃していたら絶対に捕まえてやるのに…」

煮え切らない私は居ても立っても居られず、すぐに外出し街中を散策することにした。
犯行現場を目撃しさえすれば事件解決の糸口が見つかると考えたからだ。

789 本当にあった怖い名無し sage New! 2012/02/22(水) 03:53:40.33 ID:U8CDXpqm0
ほどなくして近くのスーパーマーケットに差し掛かったところ怪しい人物を発見した。
中学生とおぼしき少女が自転車に乗ってこちらに向かって来るのが遠目に見えたのだ。

「自転車…少女…もしや、あの娘が!? いや、待て。だが、まだ幼いぞ…しかも女の子だ。
 …いくらなんでも疑いすぎだ。アレは自転車に乗ったごく普通の少女だ。そうに違いない」

しかし私は念のため、すぐに物陰に隠れられる位置を確保しながら注意深く少女を観察した。

「ズバババッ!!」

次の瞬間、サブマシンガンの銃声が街中に響き渡った。
目の前に倒れ込む一人の女性、大量の血が地面を濡らしはじめた。
阿鼻叫喚をあげながら恐怖で逃げ惑う近隣の住民たち。ダッシュで逃亡する少女。

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