Categories: 洒落怖

建て前と本音

この怖い話は約 3 分で読めます。

俺は小売業で、いわゆる「バイヤー」をやっていた。

簡単に言えば、メーカーから品物を「安く仕入れる」仕事だ。
仕入れ値が安ければ、その分儲けは多くなる。簡単な理屈だが
メーカーも儲けの為にはなかなか仕入れ値は下げない。
そこを何とかあの手この手で下げさせるのがバイヤーの手腕であり、
俺も随分メーカーの営業を泣かせてきた。
これだけ仕入れてるんだから、お宅以外にも取引先はたくさんある、
この値段で出せないならもう取引停止だ、等などかなり強気にやってきた。

そんなやり方だったから、俺と商談する営業の中には体を壊したり、
精神を壊したりする奴も結構いた。担当が替わるたび、新しい担当が
オドオドした目で俺を見てくるのが不愉快でもあり、苦痛でもあった。

そんな中、唯一俺の強気な商談にも、いつも調子良く答えてくれる
Tという営業がいた。他社が逃げ出すような値段でも、ちょっと考えただけで
「わかりました!」と快諾してくれるTは、俺にとっても非常に有難い存在だった。

Tとの付き合いは長く、仕事を離れて飲みに行ったり、互いにお中元、お歳暮など
送りあったり、今では数少なくなった「古き良き付き合い」をしていた。

107 2/4 sage 2009/09/23(水) 01:33:44 ID:4wlNAHeP0
そんなTが、あるときこんな事を言った。取引先メーカー内で、俺の存在が
日に日に煙たくなっていると。Tは長い付き合いもあってか俺に同情的だったが、
担当がコロコロ替わっている他のメーカーは、俺のやり方にもううんざりしていると。
俺は、日ごろから言われている事だ、と笑い飛ばしたが、商談の最後にTが神妙な顔で
気をつけた方がいいですよ、と俺に言ったのが印象的だった。

それから程なくして、実害が出始めた。俺の家に嫌がらせの張り紙や、無言電話が
かかってくるようになった。妻は社内結婚ということもあって、俺のやり方はわかって
おり、それに対する嫌がらせだということもわかっていたので、張り紙をはがし、
無言電話は無視するかすぐ切るという冷静な対応をしてくれた。

だがある夜帰ると、妻の顔色がすぐれない。ポストを見てきて、と微かに震えた声で言う。
何事かと思いポストを見ると、血塗れの塊が入っている。何かの内臓のような、肉片だった。

俺は、嫌がらせにしては度が過ぎると思い、次の日出社すると、片っ端から取引先に電話を
した。営業たちは慌てて否定していたが、犯人がこの中にいることは明白だった。
信頼のおけるTにも内容を話し、取引先同士の横のつながりから、犯人の目星をつけて
もらうよう依頼した。Tも乗り気で、探偵ごっこみたいで楽しそうですね、などとのんきな
ことを言っていた。

電話口で、全員に対して犯人扱いをし、金輪際こんな嫌がらせはするな、ときつく言い放った
俺だったが、その後も嫌がらせは終わる気配が全くなかった。
毎日のように商談で俺に会いにくるTの方も、手がかりは掴めていないようだった。

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