この怖い話は約 2 分で読めます。

『三丁目のタマ』の「まつりばやし」。

丸っこいデザインの猫や犬キャラクターが登場する子供向けアニメだが、「まつりばやし」の回は
台詞は最小限で、蝉しぐれや祭り囃子の音をバックに断片的なシーンでストーリーが進行していく
少し異色回だった。

  夏の午後、風鈴が鳴る縁側で、白い寝間着の若い女性がぼうっと遠くを見つめている。
彼女の膝では、猫の「ノラ」が首をかしげながら見上げている。
  場面は変わって、屋台の準備が進む神社の脇の林。ダンボールを抱えた男の子が石階を駆け上がり
「大勢の人が来る。きっと誰かが見つけて拾ってくれる」と、意を決して置き去る。

  そこに散歩の猫たちがやってきて、箱の中に子猫を発見する。時間がたち、かなり衰弱している。
飼い猫たちはご主人様に助けを求めるため各家へ走り、残ったノラが箱の中で必死に子猫を温める。
だが、行き違いで住民たちは祭の神社へ向かっており、どの家もカラ。再び神社へ駆け戻る。
  仲間たちが人混みの中で飼い主を探す間、ノラは昔のことを思い出していた。
子猫のころ、野良だった自分を拾ってくれた病弱な女性。震える自分を「死ぬな!」と何度も励ましてくれた。
あの夏の日、彼女は縁側で動かなくなった。触れた唇の先を爪が引っ掻いて、血が流れても
それでも遠くを見つめたまま微動だにしなかった。それでノラは全てを察し、家を去った。
  仲間の猫たちが飼い主を見つけ、浴衣の裾を引っぱりながら林へ連れてきた。
駆け付けた林の中で、ノラはもう箱から外に出て、うなだれていた。
「あの時と同じだ。」 箱の中の子猫は、既に冷たくなっていた。
すっかり日が暮れた神社には、楽しげな家族連れの笑いと祭り囃子がいつまでも響いていた。

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