占い・おまじない、呪い
胎児の霊【閲覧注意】

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大学時代、僕は親元を離れて一人暮らしをしていた。僕はひたすらに安さを追求し事故
物件も大歓迎であった。根っからの現実主義者でオカルトの類は信じていなかった。それ
でも怖い話は大好きで幽霊がいるなら実際に会ってみたいとも思っていた。
 僕が探し出した事故物件には入居した女性が浴槽で入水自殺したという曰があった。築
三十年の木造アパートで外観も内装もボロボロ。元々安い家賃が二万円にまで落ちこんで
いた。僕は魅力的な値段に釣られて入居を即断する。その際僕は不動産屋に興味本位で出
るかどうか聞いてみた。
「ええ、色々と話は聞いています。でも事前にそれを貴方に話してしまうと先入観といい
ますか。漠然としたイメージを空想して幻のようなものを見てしまうんじゃないかと思うんです」
 他の退居した人々は何かを見たらしい。仮に僕が何かを見て、それが他の退居者達の話
と符合するなら怪奇現象であることの裏付けとなるだろうという説明に納得し、僕は詳しい話を聞かなかった。
 女性が入水自殺したという問題の浴槽は古いタイプのもので、床と浴槽の間に隙間があった。
浴槽と連結されている湯沸かし器は年季が入っているためか生温いお湯しか出なかった。

僕は女性が浴槽の中に入って自殺する姿を想像してみる。足を曲げなければ入るこ
とが出来ない狭い浴槽の中で膝を抱えながら首を曲げ顔を水につけている。女性は何故こ
んな苦しい方法で死のうと思ったのか。何故窒息死するまで耐えることができたのか。
考えてみると不思議であった。暗闇の中で女性が顔を上げる。頭からパラパラと水滴が落ち
水面を波立たせる。女性は首だけを回し僕に視線を向けようとする。ただの空想だ。僕は
頭の中でホラー映画のような情景を思い浮かべることを楽しんだ。

690 本当にあった怖い名無し sage New! 2013/03/23(土) 20:43:35.25 ID:268xTG1oT
 夜になると流石に不気味で、暗い部屋の中で心細さと恐怖が醸成されていく。布団の近
くに放ってあったビニール袋に足が当たる。潰されたビニール袋は数百秒の時間をかけて
正常な形に戻ろうとする。チリッ……チッ。ビニール袋が断続的に音を立てる。普段は何
も感じないような環境音も夜だけは不気味に聴こえ、僕の体は硬直していく。僕は暗い風
呂場に女性がいる光景を想像してしまう。単なる想像でも気配のようなものを感じること
はよくある。髪を洗っている時に誰かの気配を感じるという経験は誰もがしていることだ
と思う。僕はそれを霊感に結びつけようとは思わない。空気が張り詰めていると感じるの
も僕の主観がそう思わせているだけで気のせいだと思っている。
 しかし気のせいであってもそれは侮れないもので、僕はかなりの緊張状態にあった。極
度の緊張状態が幻覚を見せたとしても不思議ではないのかもしれない。退居者達もそうだ
ったんじゃないかと思い始めたその時、妙な音が聴こえてくる。
 ゴポ……。排水溝に水が流れる時に空気が漏れる音だ。他の入居者が風呂にでも入った
のか、それにしては音が近い。
 排水溝の中からくぐもった喚声が聞こえてくる。それは赤ん坊の産声に似ていた。
 排水溝から聞こえる赤ん坊の泣声からは生気というものがまるで感じられなかった。赤
ん坊が甲高く声を張り上げて泣き喚く様には躍動感のようなものがあるが。排水溝から聞
こえる声はこの世に生まれてきたことを知らせるというよりは、呪っているように聴こえ
た。
 僕はたまらず起き上がって電気を点ける。すると喚声はパッタリと止む。扉が開け放た
れた風呂場の中を僕は暫く呆然と眺めていた。何も無い。恐怖に縮み上がった僕は尿意を
催す。僕はテレビをつけて少し気を紛らわせてから、恐る恐る風呂場へ近づいていく。
 風呂場の床は乾いている、何も異常は無い。しかし用を足した僕は異変に気付く。何も
聴こえない。CM明けの無音が長すぎる。テレビは消していない筈なのに。
 ゴポ……。僕の全身の毛が逆立つ。飛び退くようにその場を離れた僕はテレビを確認す
る。電源が入っていない。リモコンを押してもスイッチを押しても反応が無い。ゴポ……。
排水溝の音が耳元で聴こえたような気がした。僕は部屋着のまま部屋を飛び出した。

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